『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

[質問]
 初歩的な質問なのですが、どうしたら「意見を考えて伝えられる人」になれますか?

 今日学校で、「リフレーミングのコツを覚える」という少し変わった授業がありました。
 4人グループに分かれて、それぞれ自分の短所を紙に書き出し、グループこどで紙を交換して、他のグループの人たちの短所を長所リフレームしてみる。と言った内容の授業です。
 同じグループの先輩たちや、先生は「○○ってことは○○について考えてるんだと思うから〜」「○○が気になるってことは○○に気づける人なんじゃないかな」と、意見を次々出していて、対して私は、「人と上手く話せないか...私も同じだし...良いところってなんだろ...」とかふわふわしたことしか考えられず、意見もあまり出せませんでした。
 ロジカルシンキングの本や、伝え方の本は何冊か読んだのですが、普段の生活の中で具体的にどの様に使えば良いのかわかりません。
「○○について考えて」と言われても、どの様な視点で何を考えれば良いのかわからなくて頭がぼやぼやしてしまいます。
 この様な状態では、社会に適応出来ませんし、自分としても物事を深く考えられる人間になりたいです。
 どうすればこのぼやぼや状態を打開できますか?

「考える」「意見をもつ」のは一見誰にでもできそうで、難しいことです

[読書猿の回答]
 初歩的な質問では全くないです。考えることや意見を持つことは、一見誰にもできそうですが、改めてそのやり方を尋ねると多くの人は答えることができません。

 なるべくいろんなことに応用が効くようにゆるく定式化すると、考えることは、大きく分けて次の3つのパートから構成されます。

1.ほどく:考えているものをいくつかに分ける
2.かえる:いくつかの部分を修正したり変更する(それぞれの部分が正しいか確かめることも含みます)
3.むすぶ:ばらばらにした部分をもう一度結びなおす

 では、これをつかって、リフレーミングとやらを片付けておきましょう。
「人と上手く話せない」という短所を長所に変換すればいいのですね。
(1)考えを言葉にして分割し、
(2)それぞれの部分を別の類義語に変換して、
(3)元の意味を少しずつ別の意味に変えることを繰り返します

(これは『アイデア大全』で紹介した「タルムードの弁証法」という技法です)。

(例1)
「人と上手く話せない」
人と/上手く/話せない  ←(1)考えを言葉にして分割し
他人と/上手に/会話することが/できない  ←以下(2)と(3)を繰り返す
自分と(なら)/上手に/会話することが/できる ※
自分自身と/話すのは/できる(うまい)
考えることは/できる(うまい)
思考することが/できる/深く
思慮深い

 それっぽいものが出てきました。
 ※のところで2つの部分を反転させて(他人←→自分、できない←→できる)、全体としては似た(?)意味になるようにしています。
 今のプロセスを先輩風に言ってみると「人と上手く話せないってことは、自分とそれだけ向き合って来たと思うから、深く物事を考えることができるんじゃないかな」みたいになります。

 もうひとつやってみましょう。

(例2)
人と/上手く/話せない
人と/スムーズに/話せない
人と/ゆっくりしか/話せない
人の話を/じっくり/聞くことは/できる ※
人の話を/じっくり/聞いてくれる
聞き上手である

 また別のそれっぽいものが出てきました。このルートでも※では2つの部分を反転させて(人に話を←→人からの話を、話す←→聞く)、全体としては似た(?)意味になるようにしています。
 再び先輩風にいうと「上手く話せないって人って、相手の話を真剣に聞いてくれる、聞き上手の人じゃないかな」でしょうか。(ちょっとイラッときますね)。

 おそらく、お気づきになられたように、ここでやっているのは言葉の操作であって、思考などというものではありません。
 推論だとしたら、乱暴な上にいくつもの飛躍があります(つまり間違っています)。
 二重の反転というトリックを使って「敵の敵は味方」だと思わせるのに似た、一種の詭弁です。

 ですが発想法としては、それなりに役立ちます。例えば自分の欠点に視点が固着した人に、(合っているかはともかく)別の見方を提案することはできます。話下手な人が必ず思慮深い(聞き上手)訳ではありませんが、その可能性はゼロではないので。

 ここで発想法とは〈間違えるための方法〉であることを思い出しておきましょう。

「人と上手く話せない」という欠点を信じる人にとっての正解は「人と上手く話せない」です。
 なので、その人は自分の「人と上手く話せない」という信念に合致するデータばかりを現実から汲み上げます。これに対して間違いは、正解という信念とその人の間のつながりを少しだけ緩め、別の事を考える余地を広げます。

 さて以上のような単なる言葉遊びに過ぎないものから、本当のリフレーミングへ進みましょう。

「人と上手く話せない」という人に「いや、ちゃんと話せてますよ」と真正面から否定の言葉をぶつける手もありますが、
「私が自分のことなのでよく知っている自分の欠点を、相手にうまく伝えられなかった→やっぱり上手く話せない」と、元の欠点についての信念に絡め取られて回収されてしまうかもしれません。維持されている否定的信念は、その程度には面倒くさいものです。

 そこで相手の主張「人と上手く話せない」は認めながら、しかし、その意味付けを変えるリフレーミングが必要になります。

「人と上手く話せない」という人に、例えばこんな見方を提示できるかもしれません。

「確かにあなたは、言葉につかえたり、言い淀んだりしています。でもそれは、あなたが言葉を慎重に選んだり、どう言えば上手く伝わるかをいつも懸命に考えているからだと思います。それに、よどみなく流れ出る言葉はすぐに消えてなくなりますが、ひとつひとつ丁寧に扱った言葉は、心に残ります」

 どのようにこのリフレーミングを考え出したかを説明しましょう。

 まず抽象的で意味が広すぎる「人と上手く話せない」という言葉が、現実の何を指しているか、より具体的に捉え直します。

(抽象的)人と上手く話せない
(具体的)人と話すときに、言葉につかえたり、言い淀んだりする

 そしてこれが欠点だと考えるのか、その前提を推測します。

(前提)人と話すときは、つかえたり言い淀んだりせず、スムーズに話すべきだ

 具体的な現象は、否定するより、現実として受け入れるしかありません。しかし前提の方は、別の考えをすることができます。つまり現実に対する解釈を変えることができます。

(代替の前提)人と話すときは、つかえたり言い淀んだりしてもいい(むしろその方がいい)

 もちろん前提を否定するだけでは説得力がありません。その根拠を、相手も認めるような、より高次の前提に結びつけた方がよいでしょう。

(高次の前提)人と話すときは真剣/真面目であるべきだ

(高次の前提と代替の前提の結びつき)人と話すときは、つかえたり言い淀んだりするのは、話すことに真剣/真面目に取り組んでいるからである

 何故そう言えるのか? 例えばこう答えられるかもしれません。

(高次の前提と代替の前提の結びつきの根拠)どんな言葉を使うのか、思いつきに任せず、真剣/真面目に考えて選ぶのは時間がかかる。

 これを結び直すと、先程のような本当のリフレーミングの例になります。

 これを考えるのに、『問題解決大全』で紹介した「対立解消図(蒸発する雲)」を使いました。こんな図です。

「対立解消図(蒸発する雲)」(『問題解決大全』より)