多くの人が見過ごす情報で勝率を高める

たとえば「監査法人の変更」に着目してみましょう。

運用者はこれを「企業側が会計上、無理なことを通そうとしたのではないか」「監査法人が面倒を見きれなくなったのでは」などネガティブな情報とみなすことが多いはずです。ですから私は、「監査法人を変えた企業の株価の上昇率は、指標とする株価指数を下回る」という仮説を立てました。

そのうえで実際はどうなのか、監査法人を変更してから30週の株価を調べて検証してみました。結果はどうなったと思いますか?

なんと、勝率80%という高い数値が出たのです。

なぜこのような結果になったのでしょう?

おそらく、監査法人の変更で「膿が出る」のでアナリストの予測水準より利益が下がります。しかし次の期には「膿を出し切った効果」が現れはじめ、当初のアナリストの予測に近い利益が出ます。ところが、前期の利益が予測より下がったので、アナリストの「次の期の予測水準」は当初より下がっています。

このメカニズムにより、アナリストの目線と実際の利益のギャップが生じるため、勝率80%という数字が出たのではないかと思います。

このような銘柄を狙えば、運用者は勝率を80%に高められる可能性があります。

監査法人の変更というのは有価証券報告書に掲載される「誰でも見られる情報」です。

ただ、実際にはこのようなデータで銘柄をスクリーニングしている運用者はほとんどいないでしょう。

情報の入力についてはほとんど差がつかないと思われがちですが、多くの人が見過ごしている情報に着目することで勝率を上げることは可能だと思います。むしろ、多くの人が有価証券報告書を丹念に読まなくなった今こそ、このようなデータを探し続けることが重要だと私は考えています。

もう1つ、調べがいがありそうなテーマを上げておきましょう。

自分で株式を保有している創業経営者と、雇われ経営者では、「株価への意識」が違うはずです。創業社長が経営する会社の株価のパフォーマンスを調べてみることは価値がありそうです。

ただし、実際には「創業者の株式の保有割合の基準をどこに置くか」「資産管理会社が株を保有していて創業経営者の名前が出てこない場合はどうするか」といった問題があり、これを調べるのは手間がかかります。

そのような手間をおしまずにかけることで、「他の人と差がつく情報収集」になるはずです。

(本原稿は、伊藤潤一著『東大金融研究会のお金超講義 超一流の投資のプロが東大生に教えている「お金の教養と人生戦略」』から一部抜粋・改変したものです)