リスクのとり方を学ぶことも大切

今村:ただ、ダンスインストラクター時代の教え子とか、教え子の知り合いの若い世代に投資系の特殊詐欺の被害が多くて、古典的なポンジ・スキーム(注:ネズミ講の一種)みたいなのが、めちゃくちゃ流行ってる。「絶対詐欺やから」って言ってんのに、消費者金融に100万円借りて、まんまと奪われてしまった子もいる。

だから「世の中って意外としんどいぞ」「こんなんに騙されんな」ということを、もっと教えておいたほうが良かったと思うね。

井上:リスクについてよくわからないまま、「楽して大金を得るのがエラい」みたいな価値観に染まっているのかもしれない。

今村:リスクをとらないとリターンは得られないけれど、間違ったリスクをとらせようとする大人たちがいっぱいいる。学校でも家庭でも、子どもたちが正しいリスクのとり方を学ぶ機会がないんやろうね。「これやって失敗したときには、最悪こうなる、最高でもこれくらい」という状況を見渡せる訓練が必要かもしれん。

井上:Aパターン、Bパターンを考える訓練ね。僕も上を目指して行きたい一方で、自分の中で逃げ道もつくってる。とれるリスクを1つずつとりつつ、リスクの強度を少しずつ高めていくことが大事なのかもしれない。

今村:井上さんのやりたいことと、TBSのアナウンサーとして目指すことは、合致しているような気はする。一方で、一般的にはフリーになることがリスクであるように思われているけど、実は会社に居続けることがリスクなパターンもあるわけやん。

井上さんは、会社に居ることによるリスクを引き受けながらも、会社に居ることによって、やりたいことをやっているように思うよ。

井上:リスクということでいうと、『Nスタ』に今村さんが出てくれるのはありがたいけれど、今村さんにとってはメリットが少ないだろうな、と思ってる。今は何を言っても叩かれやすい時代だし。

今村:そんなこと言ってる井上さんが、キラーパス出してくるときがあんねん(笑)。東京オリンピック開幕の日に、「率直に今村さんは、オリンピックに賛成ですか、反対ですか」とか。あのときは、かなりテンパったよ(笑)。うまいこと逃げたつもりやったけど、案の定、炎上してたもん。

とはいえ、月1回でもコメンテーターで出演させてもらうのは、とても勉強になってる。すごい高度な脳トレをやらせてもらってる感じ。

井上:今村さんが直木賞を受賞したときに『Nスタ』で生中継をつないだときもありがたかった。

今村:裏話を言うと、あのときは直木賞受賞の記者会見まで「今のお気持ちは?」に対する答えを言ってはいけないとされていたから、「井上さんやったら、俺の気持ちを分かってくれるでしょう?」って言ったら、井上さんがぶわーっとしゃべってくれた。

すごくうれしかったし、井上さんじゃなかったら、ああいうふうにならんかった。あのときの中継は『Nスタ』で良かったというより、井上さんで良かったな、と思った。最終的には井上さんが号泣して、「何で俺が泣いているのか」とか言って、トレンド奪っていったけど(笑)。

井上:そんなつもりはなかったのよ(笑)。テレビとして中継をつなげたい意図ももちろん分かるけれども、あのときは直木賞の候補作が本当に拮抗してたでしょ。そのことが耳に入っていたから、あのギリギリの状況で出てもらうのは申し訳なかった。

今村:受賞を逃すこと自体は恥ではないと思っていたから、あのときは恥をさらしてもかまへんと思ってた。僕は今まで直木賞2回逃していたし、仮にあのときあかんかったとしても、そのときの第一声が僕の生き方を決めるなと思ってた。

あかんかったときに弱音を吐くとか、悔し涙を流すようなくだらん人間やったら、また直木賞を目指す資格はないなぐらいのつもりだった。

井上:その覚悟、めちゃくちゃいいな。

※本稿は『伝わるチカラ』(ダイヤモンド社)の刊行を記念しての特別対談です。