朝ドラ、時代劇―。知られざる利き手の舞台裏

加藤:福くんの親は、福くんを右利きに矯正しようとしました? 僕なんかは田舎に育ったので、まわりから「左利きなんだ!」と奇異な目で見られて。そういうのが嫌で、書くのだけは何とか右手にしたけど、やっぱり上手く手が動かなかったですよね。とくに「み」なんて、すごく下手くそだった(笑)。

福:僕は小学校3年で楽が生まれるまで、家族に左利きが僕だけだったので、最初は右利きにしようとされました。でもクレヨンとか右手に持たせるんだけど、わざわざ左手に持ち替えて描いていたみたいで。親はすぐ「ダメだ」って諦めたみたいです。だけど楽は僕もいたし、「それでいいよ」というふうに育てられたんで、僕より左利き度が高いですね。

楽:右手だと上手く力が入らない。固まっちゃう。

加藤:すごい分かります。それも実は脳の仕組みが関係していて。脳には、身体のそれぞれのパーツを動かす脳番地があるんですね。脚、胴、腕、手先などと。で、それぞれのパーツは使えば使うほど、他のパーツの脳番地と役割が明確に分離していくんです。

 だから手先を使う作業をおこなえばおこなうほど、手首と手先の脳番地は分離されて、手先だけを上手に動かせるようになる。それが左利きの場合、左手の手首の脳番地はしっかり分離されているんだけど、右手の手首の番地は分離できていない。まだ手首や腕とつながっているから、それで固まってしまうんです。

福:僕の場合、親は矯正を諦めたんですけど、5歳のときに初めてNHKの朝ドラに出たんですね。そのドラマでは右手で演じるのが当たり前で。それで親に「練習しようね」って言われて、右手で食べる練習をしたんです。だからお箸の持ち方だけは、右利きの人よりも綺麗だって言われます。ただ、左手のようには苦労なく使えないですけど。

加藤:そっか、お仕事では右利きを演じていたんですね。それは大変だったでしょう。とくに大変だったのはどんな動きでした?

福:やっぱり時代劇がきつかったですね。江戸時代とかは多分左利きは許されなかったから、絶対に右手ですべてをやらなきゃいけなくて。食べるのも、書道も、そして刀を持つのも。今は慣れたから右手で持つほうが基本になったんですけど、本当は全部左手でやりたいんです。

加藤:昔はもっと左利きが抑制されていたから、時代劇ってことは右利きで演じるのが当たり前ってことか。なるほど、それは気づかなかった!

福:僕が子どもの頃は右利きで演じていたことが多かったと思います。最近は「左手でもいいですか?」と聞いて「いいよ」と言ってもらえる機会が増えました。

加藤:最近は食べ物のコマーシャルでも、左利きのタレントさんが普通に左手で食べているものが増えましたよね。