監査法人と上場企業のあいだで、激しい攻防が繰り広げられている。2009年3月期より導入された内部統制と四半期レビューの義務化で、軒並み監査報酬が急上昇したからだ。そもそも日本の監査報酬は米国に比べて安いといわれてきたが、不況のあおりを受けた企業への負担は増す一方だ。

 東京・大手町にある上場企業の経営者は、監査法人の公認会計士のひと言にあわてた。昨年11月のことである。

「これでは監査意見の表明はできない。不表明になりますね」――。

 監査法人から「監査意見不表明」を突きつけられれば、市場での信用不安は避けられない。上場廃止のリスクも高まる。

 今年に入って、経営者の焦りはさらに増す。無理もない。同社はなんと、監査報酬1000万円さえ支払えず、監査人が足を運ばなくなってしまったのだ。担当の会計士は、「監査報酬を払えない企業に行く義務はない」とあっさり切り捨てた。

 同社の有価証券報告書には「継続企業の前提」に疑義の注記が付いており、経営は危機的状況にある。昨年の売上高は約120億円で、監査報酬は年間4000万円。売り上げの0.3%が監査報酬である。売り上げが同規模の企業の平均値が0.02%であることを鑑みれば、確かに負担は大きい。

 3月期決算の企業では現在、監査人が監査証明を行なう四半期レビューの山場でせわしない状況にある。第3四半期報告書の提出法定期限は2月中旬。同社では現時点で監査人がまったく活動していないから、四半期レビューが間に合わないことはほぼ確実である。

 監査法人との攻防が激化しているのは、なにも継続企業の前提に疑義の注記が付いた企業だけではない。最近では優良企業でさえも、もめるケースが増えている。

不況下の企業に
のしかかる負担増

 某優良企業に監査法人から3人の社員がやって来たのは、昨年6月の株主総会が終わってまもない頃だった。

 監査法人の「社員」といえば、監査法人の出資者であり、業務執行を行なう責任者である。