2022年度から高校で「地理総合」が必修科目となり、地理を学ぶ人が増えています。しかし「地理=暗記科目」というイメージが強く、おもしろさを理解している人は少ないのではないでしょうか。そこで、世界の国々をざっくり学べる大人の教養書として話題の『読むだけで世界地図が頭に入る本』の編著者であり、地理教育の専門家・井田仁康氏に話を聞きました。
「地理のおもしろいところは?」と質問すると、鉄道の話題からリオのカーニバルの起源、古代ローマとギリシャの違いなど、地理にまつわる興味深い話が返ってきました。(取材・構成/イイダテツヤ)
1958年生まれ。筑波大学人間系長、教授。博士(理学)。日本社会科教育学会長、日本地理教育学会長などを歴任。筑波大学第一学群自然学類卒。筑波大学大学院地球科学研究科単位取得退学。著書に『ラブリーニュージーランド』(二宮書店)、『社会科教育と地域』(NSK)などがある。
「時刻表好き」が高じて地理の世界に
──2022年度から高校では「地理総合」が必修化され、地理を学ぶ人はこれまでより増えていくと思うのですが、そもそも井田先生が地理に興味を持ち始めたきっかけはどういうところにあったのでしょうか。
井田仁康(以下、井田):私はもともと鉄道が大好きで、鉄道から地理の世界に入ったんです。
小学校の頃はいわゆる“鉄ちゃん”(笑)。時刻表を見ながら、机上であちこち旅をするのが好きでした。
その延長で地図帳を見るようになったのですが、別に山脈や川の名前を覚えるのが好きだったわけではなく、どこに鉄道をひいたらおもしろいかな、便利に行けるかなとか、そういうことを考えるのが好きな子どもでした。
それで大学に入ったら「交通地理」という分野があって「これこそ、おれのための学問だ」と思って地理にはまっていきました。
日常風景にある「なぜ?」を地理的に追究する
──交通地理とはどういうことを研究する学問なんですか?
井田:いろんなパターンやアプローチがあるのですが、簡単に言うと「なぜ、ここに道路ができたのか」「どうして、ここに鉄道が通るようになったのか」などの研究をする学問です。
そこには地形の問題も関わってきますし、距離や土木、建築の技術の話も関わってきます。
たとえば、碓氷峠ってありますよね。関東から長野、北陸へ続いていく交通の要所であり、難所でもある場所です。
碓氷峠の歴史を振り返ってみると、道路ができて、鉄道が通ったり、新幹線が通ったりしているのですが、道路、在来線、新幹線などのルートはすべて違うんです。
通常、山を越えるときは「鞍部」という一番低いところに道路を作るのが基本です。そもそも「ここが一番低い」というルートをどうやって発見したのか、そこに至る道をどうやって作ったのか。そういったところを紐解いていくと興味は尽きないですよね。
土木技術が発達して、長いトンネルが作れるようになった現代では、新幹線のように直線距離でトンネルを通すことができます。
しかし、そこまでの技術がない時代には、山に沿って鉄道を通すわけです。通常の列車はそんなに急勾配を登ることができませんので、仕方なく、急勾配を登れる機関車にわざわざ付け替えて登ったりするのですが、それでも最短距離ばかりを通ることはできませんから、大回りするように鉄道がひかれていったのです。
碓氷峠と一言で言っても、実はいくつものルートがあり、こういった経緯を調べて碓氷峠を通ると、同じ景色が全く違ったものに見えてきます。そこが交通地理の面白いところです。
たまたま私は鉄道が好きでしたけど、地理はあらゆるものにつながっているので、自分の興味のあるところから地理の世界に入っていって、学びを深めていってもらえればいいと思います。