アルコール依存症(アルコール使用障害:AUD)は、全てのタイプの認知症リスクを3.3倍に上昇させる。
米マウントサイナイ医科大学の研究グループは、社会性が欠如し、抑制が利かなくなる「前頭側頭型認知症」、記憶障害や見当識障害が中心の「アルツハイマー型認知症」、言葉がすぐ出てこない、あるいは短い文書を復唱できない「意味変形型原発性進行性失語症」の3タイプの認知症について、AUDとの関係を調べている。
調査は、1999年から2017年の間に同大の学術センターで認知症と診断された1518人のデータを使って行われた。
その結果、対象者のうち40歳以降にAUDと診断されていた患者の割合は2.2%で、高齢者の認知症とAUDの合併比率(1.7%)よりも高かった。特に、前頭側頭型認知症では、中高年期に発症したAUDとの関連がアルツハイマー型認知症の5倍に及ぶことが示されている。
具体的には、前頭側頭型認知症のおよそ15人に1人が40歳以降にアルコール乱用に走り、20人に1人が認知症の初期症状としてアルコール乱用に陥っていたという。
一方、40歳未満でAUDと診断されたグループと認知症との関連は、3タイプ間で差がなかった。
研究者は「中高年以降に始まったAUDは、前頭側頭型認知症の初期症状の可能性がある」とし、AUDの治療の前に、認知症専門医を受診して適切な診断とサポートを求めるべきとしている。
前頭側頭型認知症は、思考や理性に関わる脳の前頭葉と、感情をつかさどる側頭葉に変性が生じるタイプの神経疾患だ。発症初期は感情や行動の抑制が利かず、暴言など自分本位の極端な行動が現れ、社会参加が難しくなる。
日本では認知症全体の1%前後と数こそ少ないが、その多くは現役世代が発症する若年型だ。本人と介護家族の負担は計り知れない。
40代以降、飲酒量や飲酒パターンが明らかに悪化している場合は、「ストレス」で片付けず、若年型認知症の可能性も視野に入れておこう。適切に診断を受けるには、脳の画像検査が必須である。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)