新型コロナの感染拡大がトレーサビリティの背中を押した!?

 2008年の「メラミン事件」で、中国全土ではトレーサビリティの土台作りが動き出したといわれている。2009年には「食品安全法」で食品メーカーのトレーサビリティ義務が明確化され、2015年には国務院がシステム構築の加速を促した。実際にプラットフォームが作られたものの、このシステムに登録する企業は全体の約10%にとどまり、取り組みに飛躍的な進展は見られなかったようだ。

 しかし、最近これに“一歩前進”がもたらされた。トレーサビリティが注目されることになった理由は、意外にも新型コロナウイルスの感染拡大だった。

 2020年4月、武漢市の76日間にわたるロックダウンが解除され、国民が安堵のため息をついたのもつかの間、地方都市では局地的にコロナ陽性者が発見された。同年7月、大連でも感染爆発が起こったが、報道によると、感染者のうち60人は水産会社の冷凍加工場で働く従業員で、感染源はエクアドルから輸入したバナメイエビで、外箱からコロナウイルスが検出されたという。

 大連だけではない。安徽省や山東省、福建省などの省でも輸入した冷凍エビや鶏肉、あるいはその外箱からウイルスが検出された。エビも鶏肉も中国の食卓に欠かせない食品であるだけに、市民は冷凍の輸入食品に対して過敏になった。

 そこで対策に力が入れられた。中国のデジタル化社会に詳しい富士通チーフデジタルエコノミストの金堅敏氏は2020年当時を振り返り、こう語っている。

「ゼロコロナ政策が行われている中国には感染がない状態であり、『感染は海外からもやってくる』という考えの下、輸入食品のすべてにトレーサビリティを要求することになったのです。現在すでに90%以上の冷凍食品のトレースが可能となっているようです」

 皮肉にも新型コロナウイルスの感染拡大が、遅々として進まなかった食品トレーサビリティの道を開いたようだ。金氏は、「双循環」戦略(内需と外需の双方を好循環させて成長しようという戦略)に基づく内需振興の必要性からも急がれているとし、次のようにコメントしている。

「現在、輸入食品のトレーサビリティを行うプラットフォームが構築されると同時に、国内で構築されている関連当局や地域、企業のトレーサビリティシステムが相互に乗り入れる形で、全国レベルで追跡メカニズムのベースが整いつつあります。2025年には内外を統合したトレーサビリティシステムを完成させる目標を打ち出しています」

魚1匹1匹に2次元コード

 中国国内ではアリババ傘下の生鮮スーパー「盒馬鮮生(以下、フーマー)」で取り組みが進んでいる。フーマーは2018年に「トレーサビリティプラン」を打ち出し、消費者が専用アプリで2次元コードを読み取ることで産地や検査などの情報確認ができるようにした。2022年には中国人が好んで食べるニベ科の魚「大黄魚」の1匹1匹に2次元コードのタグが付けられた。生け簀で売られる高価なエビやカニなどにもすでに2次元コードが付けられている。

「中国の食品トレーサビリティの普及は緒に就いたばかりだとはいえ、上海ガニなど高価な魚介類ではトレーサビリティが進んでいます。値が張るものは消費者も購入時は注意深く調べますし、販売側にとっても投資インセンティブがあるためです」(金氏)