「メインの読者層が著者と同じ高齢者層なので、新聞広告で当シリーズを知ってくださる人が多いのです。新聞で広告を見て本を手に取ってくれる人もいれば、そこから『自分も書いてみたい』と思ってくれる人もいます。新聞の広告で、本の宣伝と著者の募集が同時に行えるのです」

 こうして持ち込み希望者が増える仕組みが生まれたことで、数々のネタが集まるようになったわけだ。とはいえ、どれだけ珍しい職業からの持ち込みがあろうと、丸裸になれない著者とは本を作らないというのが中野氏のポリシーだ。揺るぎない信念を支えるのは、読者の生の声だという。

「年配の読者は、電話や手紙で直接感想を伝えてきてくれる人も多いのです。『似た境遇なので励みになりました』とか『大変だけど、明日も頑張ろうと思えました』という声を聞くと、『この読者を裏切れない』と強く思うんです。実は過去に、最初は条件をOKしてくれていたのに、途中で『やっぱり家族のことだけは書けません』と言ってきた著者がいました。しかし、家族の話も含めて『生活と痛みのドキュメント』なので、書いてもらえないと困ります。結局著者も私も譲らず、その本は発売直前で出版を中止しました」

 直前で発売中止とは相当の痛手となる判断だろうが、中野氏は「自分の中でOKと言えるクオリティーでなければ、出版できない」と強く語る。

「シリーズのファンの方に『今作はあまり面白くなかった』なんて、絶対に思ってほしくありません。シリーズのクオリティーを保つためには、妥協するわけにはいかないのです」

最新シリーズは住宅営業マン
いずれはアスリートも

 心から自信を持って届けられる内容でなければ、発売直前でも出版をやめる。これもかなりインパクトの強いエピソードだが、ほかにも、シリーズの看板を守るために奮闘した経験があるそうだ。

「ある日、広告代理店の人が『この本、知ってますか?』と教えてくれた本があるのです。『○○○〇○(職業)チョメチョメ(擬音)日記』というタイトルの本でした。装丁も当社の『職業日記シリーズ』にそっくりで、目にしたときはとても衝撃を受けました」

 しかも書店では同じジャンル扱いで、「職業日記シリーズ」の本の隣に陳列される。タイトルも装丁も似ている他社の本は、読者からすれば、「三五館シンシャの新作」と勘違いしてもおかしくない。