事故の教訓を受けてブレーキ系統の多重化などが進められたが、2017年6月にもJR九州唐津線で普通列車が踏切内に立ち往生していたトラックに衝突し、ブレーキ管などが大きく損傷してブレーキが利かなくなり、1.5キロほど進んでようやく停止したという事例も発生している。

 車両構造が異なるため一概に比較はできないが、障害物と衝突したにもかかわらず、運転士がそれを認識できず、停止などを行わなかったのは、二次被害に繋がりかねない重大な問題だ。確かに運転台が2階にあるために通常の車両とは衝撃の伝わり方が異なることは考えられるが、全く感じないとは思えない。

 JR九州の広報担当者は「障害物にぶつかる前に止める、ぶつかったらすぐに止める、これを徹底していきたい」と語るが、おそらく「あそぼーい!」の運転士は、そんな原則は百も承知だろう。今回の問題の本質は、衝突前と衝突後、2度の危険サインが完全に見過ごされてしまったことにある。

 JR九州は、会社の安全に関する基本的な考え方である「安全の綱領」に、「判断に迷ったときは、最も安全と考えた行動をとらなければならない」と掲げている。当該運転士は「判断」する以前に倒木を「認識」すらしていなかったが、それはそれで一面の事実だとしても、直接的であれ間接的であれ、キハ183系に乗り慣れていなかったのか、あるいは、当日の天候に不安があったのか、何かしらの不安や迷いがあったのではないだろうか。

 前出の現役運転士は、線路内に木がはみ出る状況(鉄道用語では「建築限界を侵している」と言う)が常態化し、車体と木枝の接触に抵抗感が薄れていたとすれば、運転部門と保守部門をはじめとする社内の風通しに問題があるのではないかと指摘した。

 異常な状態が当たり前になると、安全の感度はどんどん低下していく。JR本州3社と比較して鉄道事業の基盤が弱いJR九州は、在来線について運行本数減便や駅の無人化などの経費削減や、業務の合理化を進めている。それ自体が問題というわけではないが、従業員が組織の在り方や仕事の変化に対応できていない面もあるのではないだろうか。

 ミスの連鎖が大事故を誘発する。今回は複数のミスが重なったが、幸い大事には至らなかった。しかし、一歩間違えば乗客が死傷する事態になっていてもおかしくなかった。JR九州はこの「幸運」に感謝して、安全意識を根本から見直す契機にしてほしい。