重力が落ちる方向を見極める

平尾:その中でまた、未来の組織から逆算して意思決定をされている。未来はどういうふうに見ていらっしゃいますか。福島さんの未来予想を伺いたいです。

福島:ビジョンを基点に考えます。「世の中ってこうなるよね、こっちの体験のほうが自然だよね」とか。僕はよく重力っていう表現を使うんですけど。例えば今、この世の中で、固定電話を普及させたいみたいなビジョンを持っている人がいたら、ちょっと止めるじゃないですか。

平尾:はい(笑)

福島:「いや、それ重力に逆らうほうにいってるよ」、みたいな(笑)。炭鉱を復活させようとか、やっぱり紙の時代に戻そうとかも同様です。それって、重力に逆らってることだと思うんです。重力が落ちるほう。例えば今で言うとDXであったりとか、よりバーチャルな世界に人が移動していくとか。そういう重力が落ちるほうってどっちなんだろうと、未来を予想するときは考えています。自分が何かをせずとも勝手に落ちてく方向って、あるじゃないですか。起業家が見極めるべきは、その重力の方向です。あとは、リスクを取って、それにもう身を委ねる。

もう一つの考え方としては、とはいえ10年後とか20年後の未来を予測しろって言われたら究極それはわからないじゃないですか。でももっとミクロな視点、例えば自分の事業の1年後、2年後の数字をどれぐらい正確に予見できるかみたいな話は予測できないといけないはずです。これって事業の理解力だと思うんですね。

こういうチャネルからユーザーがくるからとか、こういう理由で使ってくれる、これぐらいの単価はこれぐらいの価値、ないしは広告単価から生まれてくるとかって、どんどんKPIで一個一個コントローラブルにしていけるわけじゃないですか。そういう意味で、事業計画としての予見性の高さは、実は経営しているうえでめちゃくちゃこだわっているポイントです。

大局観として「重力が落ちる方向」を間違えないこと、ミクロな視点では、1年後、2年後の未来を正しく、例えばどれぐらい広告費を投資すればいいのかとか、人がどれぐらい増えたらどれぐらい売り上げが増える見込みなのかとか、このプロダクトに対してどういう開発にフォーカスすれば競争に勝てるかみたいなのものは、僕は積み上げの理論で予想できると思ってるんですよね。

その答えが出せないのなら、1年後の未来すら読めない状態ということです。その状態では人員計画も立てられないし、どれくらい投資すればいいかもわからない。つまり、経営できないってことになっちゃうと思うんですよ。

事業の理解度を高めつつも、一方でその積み上げだけで見ていると10年後のことはわかりません。鳥の目というか、引いた視点でも考える。つまり、自分たちは重力に逆らってるのか、それとも重力の落ちる方向に事業をやっているのかについても、少なくとも1年スパンで修正していかないといけない。重力って逆転することがあるんで(笑)。昔は、重力が落ちる方向に自分はいってたと思うんですけど、5年ぐらいたったら重力に逆らってるぞ、みたいな(笑)。

平尾:面白いですね。

福島:例えばガラケーのコミュニティサイトを作っていた人とか。2011年ぐらいから重力が反転したと思うんですよ。

平尾:スマホの登場によってですね。「重力」、いい表現ですね。基本的なパラダイムシフトがない限りは、長期的な重力をベクトルとして見ていて、短期中期は、上場企業経営者経験者としての、経営をしっかりやる。その両輪を意識されているということですか。

福島:そうですね。

平尾:すごいですね。普通のスタートアップの人だと、後者は経験がないと発想がないですよね。いつから、そういう思考法なんですか。

福島:上場起業の経営によって鍛えられました。それまでも、もちろん計画の予見性とかも含めて合理的に緻密にはやっていたんですけど、上場後のプレッシャーにさらされながら業績を達成していく経験は、桁違いの重さでした。

平尾:なるほど。超合理的なタイプのふっきー(福島社長)でもそう感じたんですね(笑)。

福島:事業を理解して、合理的な投資を説明して、会社を成長させつつ利益も出してく経営者としての能力はすごく鍛えられたなって思います。

〈第3回へ続く〉