中高年のスポーツ外傷が増えている。膝のけがと並び、多いのはアキレス腱断裂だ。
アキレス腱はふくらはぎから踵へ繋がる人体で最も太い腱を指す。
腱が切れる音は衝撃的だが、意外に痛みは小さい。受傷後、時間がたてば足を引きずりながらも歩ける。ただ、つま先立ちはできない。
治療法は手術と、足首をギプスや装具で数カ月間固定する保存療法の二つがある。アスリートは早い競技復帰を目指し、手術療法を選択するケースが多いが、一般人は悩ましいところだ。
ノルウェー・オスロ大学の研究グループは、526人(平均年齢39歳、男性7割)の患者を対象に、足首を縦に切り開いて腱を縫い合わせる標準的な直視下手術法(176人)と、傷が小さい低侵襲の手術法(172人)、そして保存療法(178人)について効果と安全性を比較している。
評価はアキレス腱断裂による痛みや動作制限の状態を見るATRSスコアの変化と、再断裂率などから行われた。
その結果、ATRSスコアは治療開始3カ月でがっくり落ちたが、その後は全ての群で徐々に回復。12カ月後の状態は、3群間でほとんど差がみられなかった。
一方、アキレス腱の再断裂率は、保存療法群で6.2%(11例)だったのに対し、手術群は2群とも0.6%(1例)にとどまった。ただし、神経の損傷は低侵襲手術群で5.2%(9例)、直視下手術群で2.8%(5例)と高く、保存療法群では0.6%(1例)のみだった。
この結果からすると、治療効果そのものは手術、保存療法で明らかな差はなさそうだ。問題は再断裂と手術につきものの合併症リスクをどう天秤にかけるかだろう。
ちなみに保存療法で再断裂を避けるには、最初の1~2カ月間、いかにけがをした脚に体重をかけずに過ごせるかがポイント。順調にいけば2カ月以内に装具を外し、リハビリテーションを始められる。
万が一、治療法を選ぶ場面が来たら、普段の生活動作を想定して選択していこう。
それ以前に運動前の念入りなストレッチをお忘れなく。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)