メッセンジャーアプリでは世界シェア1位の「WhatsApp(ワッツアップ)」は、ウクライナから米国に移住したジャン・コウム氏が共同創業したスタートアップです。2014年にフェイスブックに買収された同社では、個人情報漏えいのリスクを非常に重視しており、プライバシーや匿名性を重んじたプロダクトを提供してきました。これはやはり、旧ソ連のような統制国家の影響下にあった土地で生まれた発想なのだと思います。

 東欧に限らず、ヨーロッパでは個人情報に対する考え方がかなり厳しく、米国や私たち日本から見れば、ややもするとあまりに厳しいと感じることもあるのですが、それにはこうした背景がきちんとあるのです。そして、その制約の中で生まれるものは、今回のロシア侵攻というような状況下では非常に価値を発揮します。また、その価値自体がサービスのアイデンティティとなっていると感じます。

 政府のITに対する取り組みという意味では、今回のロシア侵攻においてウクライナ政府は、非常にソーシャルメディアの使い方に長けていたと言えるでしょう。SNSを通じて国際的なメッセージを出すことがすぐにできたのは、ITこそが国難の際に武器の1つになるという考え方においてエストニアと似た背景を持ち、その下地もあったということでしょう。

スタートアップによるウクライナ支援と
新しいダイナミズム

 ウクライナ出身者が創業に関わったスタートアップには、世界的な規模に成長した企業がいくつもあります。先ほど挙げたワッツアップ創業者のコウム氏のほかにも、ウクライナ出身の起業家にはペイパル共同創業者のマックス・レブチン氏、デジタル銀行兼海外送金サービス、レボリュート共同創業者のウラド・ヤツェンコ氏らがいます。

 AIによるクラウド型の英文作成支援ソフトを提供するグラマリーは、3人のウクライナ出身者により、ウクライナで産声を上げました。評価額130億ドル(約1.6兆円)にまで成長したグラマリーは、現在では米国サンフランシスコに本社がありますが、ウクライナの首都キーウにも研究開発拠点を置いています。