今のところはまだ、主にアウトソース先としての地位に甘んじてはいるものの、最近では、ウクライナ発で評価額100億ドルを超えるスタートアップや、ウクライナ移民が創業メンバーとして参画する有望なスタートアップなども誕生しています。その背景にはIT技術立国としての教育基盤や英語への親和性、起業を厭わないビジネスマインドなどが、うまく反響し合っていることがあるのです。
こうしたIT産業への転換が進む国はウクライナだけではなく、周辺の東欧諸国でも同じような動きが見られます。旧ソ連の支配下に置かれていた東欧諸国、たとえばエストニアなどは行政インフラのIT化が進み、「電子国家」としても知られています。
IT産業への転換が進む東欧諸国
産業の入れ替えが進まない日本
日本との比較で言えば、ウクライナをはじめとする東欧諸国でITへの産業転換が進んでいる一方、日本ではそれが思うように進まない現状があります。なぜでしょうか。
日本の場合も、いわゆる「オールドエコノミー」や「レガシー」と呼ばれる産業は、ここ10〜15年ほどで徐々に縮小してはいます。ただ「ソ連崩壊で産業が空洞化した」というような劇的な環境変化は起きていないため、産業の入れ替えが進まなかったという事情があります。
先述したように、ウクライナでは航空宇宙産業などの製造業がロシアへ移管されたことにより、何かでそれを埋める必要がありました。そこで最も成長が著しい分野として注目されたのがITでした。
これは、日本をはじめとするアジア勢に製造業の覇権を持って行かれてしまった米国でも似たようなことが起きていて、米国ではITへの投資が盛んになりました。一方、日本は製造業に強みを持ってはいましたが、その後、他のアジア諸国に覇権を握られる中でも、産業構造はあまり変わっていません。
日本とウクライナなどの国との違いとして、もう1つ、国内マーケットのサイズがあります。アジアの中でも台湾や韓国などと比べると、日本は国内マーケットが大きいのです。それ故に必ずしもグローバルへ進出しなくても、多くの企業や産業が国内需要だけでそれなりに賄えていました。