名門財閥、三菱の「鉄の結束」に異変が生じている。グループ幹部のキリンホールディングスが、長年にわたるメインバンク、三菱UFJ銀行からの社外取締役の受け入れをやめたのだ。特集『社外取「欺瞞のバブル」9400人の全序列』の#26では、キリンHDの「三菱指定席」撤廃の真相に迫った。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)
名門財閥 “幹部”のキリンHD
一昨年に「三菱指定席」を撤廃
「金が必要となれば、三菱UFJ銀行に相談する。心強い存在で、“三菱”の仲間意識は強い」。あるキリングループ関係者はこう語る――。
名門財閥の「三菱」。序列は明確で、三菱UFJ銀行、三菱重工業、三菱商事の「御三家」を頂点に、その下には、三菱ケミカルや東京海上日動火災保険など主要10社で構成される「世話人会」がある。1907年に設立した酒類大手のキリンホールディングス(HD)はその世話人会に所属し、三菱グループの“幹部”ともいえる存在だ。
三菱グループ内の企業では盛んに交流が行われ、「社長らが出席する『金曜会』だけでなく、全国各地で一般社員レベルの集まりを定期的にやっている」(三菱グループ関係者)と血の濃さがうかがえる。
“草の根”レベルだけではない。長らくグループ企業同士で株式を持ち合う「金」の関係だけでなく、お互いに幹部を派遣し合い、「人」を介して結束を維持してきた。コーポレートガバナンスの高まりがあってもなお、結束力を見せつけるかのようにグループ内の企業同士で社外取締役などを持ち合う(三菱・三井・住友の社外取完全マップ!ポストの「持ち合い」に見る鉄の結束とグループ内序列)。
キリンHDも同じだ。御三家で、もちろんメインバンクである三菱UFJ銀行から社外取を受け入れてきた。99年に東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)頭取だった岸暁氏が社外取に就き、その後も同銀行出身の三木繁光氏、永易克典氏といった首脳らが社外取に名を連ねてきた(下図参照)。
ところがである。実は、2020年に三菱UFJ銀行からの「指定席」はひっそりと消滅している。三菱グループの幹部でもあるキリンHDによる「脱・三菱」は鉄の結束を誇る三菱にとっても“異例”の事態といえる。なぜ、キリンHDは指定席の撤廃に踏み切ったのか。
次ページからは、キリンが「三菱の指定席」を撤廃した真相を明らかにする。異例ともいえる判断の陰にあるのは、財閥の結束よりも優先された“あるもの”の存在だ。