日本取引所グループ(JPX)は清田瞭最高経営責任者(CEO)が8年目の長期政権を迎えた。だが、成長は行き詰まり株価も低迷。社外取には産業界の大物が並ぶが、東京証券取引所を傘下に置く上場企業の“総本山”といえる存在でありながら、ガバナンスの「ガバガバ」ぶりも際立つ。特集『社外取「欺瞞のバブル」9400人の全序列』の#23では、その緩み切った実態について、数々のエピソードとともにレポートした。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
卑近なエピソードがそろい踏み
大物社外取がいても引導渡せず
上場企業を取り仕切る“総本山”といえる存在の東京証券取引所。その親会社、日本取引所グループ(JPX)の清田瞭最高経営責任者(CEO)が、今年で就任8年目を迎え長期政権となっている。
証取という金融インフラ事業を手掛ける一見地味な企業だけに、普段はあまり日の目を見ない存在かもしれない。
しかし、海外の主要取引所と同様、JPXも東証に株式を上場しており、常に市場での評価を受ける立場にある。
それどころか、むしろ東証は上場企業を規律するコーポレートガバナンス・コード(CGC)の“施行者”でもある。CGC冊子の副題には「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために」と掲げられているから、自らが先頭に立って範を示すべき立場といえよう。
ところが、である。そのJPXの株価がさえない。6月20日の株価を5年前と比べると、JPX株はほぼ横ばいなのに対し、日経平均株価は3割高い水準。相場の影響を受けやすいとしても、明らかにぱっとしない。
いつになく世の関心を集めた今春の東証市場改革にしても、市場関係者からは「各方面への配慮が過ぎて骨抜きに終わり、大改革に期待していた海外投資家からの評判はすこぶる悪い」(ベテラン証券アナリスト)との声が飛び交う。
世界の取引所競争でもJPXのプレゼンスは低下中だ。まずは時価総額で見ると、JPXは足元で1兆円割れ寸前だが、米ニューヨーク証券取引所を傘下に持つインターコンチネンタル・エクスチェンジは約500億ドル、米先物取引所運営のCMEグループは約720億ドルと、それぞれ日本円にして約7倍と約10倍もの格差がついている。
実は証取ビジネスは「相場頼み」だけではなく、“企業努力”が生きる面もある。例えばJPXの収益源は大きく「取引」「清算」「上場」「情報」関連の四つあるが、直近の2022年3月期決算で収益の3割超を占める後者二つは、相場の影響を受けづらい。実際、ライバルである世界の証取は合従連衡を伴いながら情報分野などを強化している。
それでも東証は現物株シェアの約9割を握っているから、極端な話、経営判断などしなくてもいいのかもしれない。何しろ、JPXの直近決算は営業利益率が5割以上に上る。既得権益の “おいしい商売”で利益を積み上げてきたわけだ。
権益にしがみつくべく「守りの投資」は重視してきたはずだが、20年10月には前代未聞の「全銘柄の終日売買停止」というシステム障害に見舞われた。
攻めも守りも中途半端なJPX。3月に発表した25年3月期までの中期経営計画では、最終年に営業収益1470億円、純利益530億円とする目標を提示。それぞれ22年3月期比9%増、6%増という微々たるものだ。中期経営計画も保守的で野心に欠け、成長戦略が見えてこない。
一方、先述のCMEグループは、21年12月期決算と3期前を比べると、売上高で約1割、最終益で3割ほど伸びている。このままではさらに世界のトップと稼ぐ力でも差が開いていくのは明らかだろう。
事業の多角化や国際化に踏み出せず、停滞する現状をどう打破するのか――。
聞こえてくるのは活発な議論ではなく、清田CEOの独断専行ぶりをうかがわせる卑近なエピソードばかりだ。
18年には、売買が禁じられている上場インフラファンドを取引し、内規に違反するという前代未聞の醜聞を引き起こした。取引所のトップが、である。他にも後述のように資質が疑われるエピソードが続出なのだ。
そんなトップがいたら、誰がストップをかけるのか。“ガバナンス改革の主役”である社外取締役のはずだ。本来、企業価値向上を実現できないCEOに引導を渡すのが、社外取を含む取締役会の最大の責務といえよう。
だが、「重し」であるはずの社外取が機能しているとは言い難い。次ページでは、大物ぞろいのJPX社外取がなぜ機能していないのか実名の人物相関図を交えて分析。「ガバガバ」ガバナンスたるゆえんを明らかにした上で、清田CEOとゴルフを巡る「蜜月と悪評」、後継を巡る顛末などを記載。企業価値向上を果たさぬ中、上場企業の“総本山”たるJPXで何が起きているのか、そのリアルな実態をつまびらかにする。