社外取「欺瞞のバブル」9400人の全序列#27

長期投資家など「投資のプロ」を取締役会に迎え入れ、株主との対話などに力を入れる、米国発の「ボード3.0」という概念が注目を集めている。社長に近い取締役が経営を助言する「1.0」を経て、現在の主流はモニタリングや監督の機能を求める「2.0」。「3.0」は3年ほど前に提唱されたばかりの新たな取締役会の形で、社外取締役の情報や時間、意欲などが不足しがちな「2.0」の問題を乗り越えるべく考案された。特集『社外取「欺瞞のバブル」9400人の全序列』の最終回では、この新潮流の提唱者であるスタンフォード大学のロナルド・ギルソン名誉教授に、日本の企業統治の評価や、「3.0」モデルを機能させるための神髄などについて直撃した。(聞き手/ダイヤモンド編集部 竹田幸平)

ガバナンスの世界的泰斗が解説!
新潮流「ボード3.0」の神髄とは?

――日本の企業統治の現状をどう分析しますか。欧米に比べて株価などが低迷し、企業価値向上を実現できているとは言い難い状況ですが、何か構造的問題が潜んでいるのでしょうか。

 より長い視点で振り返る必要があります。古典的なバージョンは青木先生(元スタンフォード大学教授の故青木昌彦氏)による、メインバンクと企業の関係に根差した分析です。そこには、今とは全く異なる産業組織、企業活動がありました(ダイヤモンド編集部注:ボード「0.0~1.0」的な例)

 実際、それは非常に優れていました。かつて米国では、ハーバード大学の経営戦略分野の教授が「米国は資本市場の介入に頼り過ぎている。もっと日本のようになるべきだ」と言ったものです。

 しかし、やがてそのようなガバナンスのシステムは、実際の市場に合わなくなりました。誰かが失敗したというより、世界そのものが変化したからです。

 複雑なシステムを変化させるのは難しく、部分的に変えようとしても、うまく機能しません。かみ合っているように映る構造があっても、古いパーツでは機能しないのです。日本でメインバンク・システムが崩壊したときもそうでした。労働市場や他の社会制度が変わらない中、パフォーマンスが上がらない今日の状況もそうかもしれません。

 実際の市場での変化が、ガバナンスの構造へと徐々に反映されていきます。もちろんそれは悪いことばかりではありませんが、システムを変えるのには時間がかかるのです。

 そこで、私たちは、ある力を持った取締役会システムの設計を試みてきました。それが2019年に考案した「ボード(取締役会)3.0」モデルだったわけです(下説明参照)。

【ボード1.0】(1950~60年代)
・アドバイザリーボード(助言に重点)
・取締役は最高経営責任者(CEO)が率いる経営チームに所属
・社外取締役は、顧問弁護士、取引先銀行などの関係者で構成
 ↓
【ボード2.0】(70年代~現在)
・モニタリングボード(監視に重点)
・CEO以外は経営陣から独立した社外取で構成
・指名・報酬・監査委員会の整備が進展
 ↓
【ボード3.0】(2019年提唱~将来?)
・「投資のプロ」の社外取が、経営陣の戦略策定・遂行を監督
・プライベートエクイティー・ファンドのように密に企業経営へ関与
・「2.0」での社外取の課題「情報・時間・意欲」不足の解消を狙う

*経済産業省の研究会資料などを基にダイヤモンド編集部作成

――ギルソン氏らが提唱した「3.0」モデルは、企業統治の在り方に悩める日本の企業経営者の間でも関心を集めています。どういう経緯でこの概念にたどり着いたのでしょうか。

 私とジェフ(「ボード3.0」論文共著者である米コロンビア大学のジェフリー・ゴードン教授)は、「1.0」「2.0」「3.0」と、あえてテック的な響きのする言葉を用いました。実際の世界は、テクノロジーを中心に、ガバナンスの在り方よりも速く変化していますからね。では、「3.0」が「2.0」と異なるポイントとは何かを説明しましょう。