基本は授業を変えること

西村 東京学芸大学の卒業生は、かつては圧倒的に公立校に入りました。ところがいまは、第一志望先が私立校という学生も増えてきています。その背景にあるキーワードは「多様性」です。日本の社会が多様性を容認する方向に動き出したことを反映して、私学を中心に、中学や高校にも新しい学びのスタイルをとる学校が徐々に出てきています。

 一方で普通科の公立高校の授業を見ると、驚くほどにやっていることは一緒で、違うのは入学時の偏差値くらいだったりします。ユニークな校長がいて、その公立校が一瞬変わったように見えても、人事異動があると、見事なまでに元に戻る。 

森上 その原因はどこにありますか。

西村 教育委員会にいるときは、文部科学省の方向性にそって新しい教育の旗を振っていた先生も、伝統的な進学校の校長になったりすると、大学合格実績重視に戻ってしまっている例を少なからず見てきました。地方では特に顕著ですが、県庁の幹部も議員も、そうした伝統校の卒業生という場合が多いので、どうしても大学合格実績に頭がいってしまうのではないでしょうか。

森上 ICT(情報通信技術)の進展などで、学校の現場もだいぶ変わってきている印象があります。そうした観点からはいかがでしょうか。

西村 ICTの発達で、教材も効率よく準備することができるようになりました。その半面、個々の先生方の工夫の余地が奪われている側面もあるように思います。

森上 効率化が進む一方で、失われているものもあると。

西村 その点では、「総合的な学習の時間」や「総合的な探究の時間」は、先生方の創意工夫がしやすいです。ただ残念なことに、多くの先生方の受け止め方は、“総合”を全く独立したものととらえ、教科一般の授業の方は従来型の授業スタイルを一切変えないというものです。しかし、本当は既存の教科の授業も変っていく必要があることは、これまでお話してきた通りです。