西村圭一(にしむら・けいいち)
東京学芸大学大学院教育学研究科教授・学長補佐
東京学芸大学D類(特別教科教員養成課程)数学科卒業。八丈島にある東京都立の定時制高校、東京学芸大学附属大泉中学校、同附属国際中等教育学校の教諭を務める。国立教育政策研究所教育課程研究センター総括研究官を経て、2011年に東京学芸大学数学教育学分野に着任。
十種競技のように多彩な力
――新しい学習指導要領が小・中・高の順に導入され、2025年をめどとした大学入試改革の一貫で大学入試共通テストも2回目が実施されました。このように令和の時代の教育改革が進められています。それは、何を目指しているのか、教育現場では何が起きているのか、この点に関してお話しいただければと思います。
森上 例えば数学の授業や試験勉強では、チャート式に代表されるような解き方を身に付けさせ、いかに早く正解できるか、その技を競うようなところがあります。以前、Z会で教えている石田浩一先生が、共通テスト「数学IA」が難しかった“本当の理由”と共通テスト「数学IIB」がセンター試験的発想では対処困難な理由という記事で、実際の大学入学共通テスト問題に即して詳しく分析されていました。共通テストでは、従来とは異なる資質が問われているように思いますが、その点はいかがでしょう。
西村 数学的な力には、限られた時間で速く正解を得るという力以外にも、いろいろなものがあります。私はこれをよく陸上の「十種競技」にたとえます。これまでは、そのうちの1種目、例えば100mダッシュだけ練習を積んでおけば点が取れたため、学校もその1種目ばかりに力を注いできたように思います。
難しいと言われた共通テストからのメッセージというのは、100mダッシュだけでなく、砲丸投げや走り幅跳びなど、せめて3種目くらいはきちんとやりましょうというものだと思います。
森上 中学校では、例えば2次関数について、学習指導要領に即して、原点Oを通るグラフしか学びません。高校入試では、中学で学んだことしか問えないため、かえって妙に難しい問題が出されています。実際には、関数のグラフなどでは原点を通らないものの方が多いわけです。
こうした勉強の仕方をしていると、数学的な学びを狭めてしまうのではないでしょうか。大学まで接続していく数学教育を考えると、教える側も変わらないといけないのでは。
西村 いま教育の現場を見ると、両極端になっています。受験のために100mダッシュばかりやっている学校と、十種競技のようにいろいろ必要だという社会の要請に応えていこうとしている学校とに、です。
一方で、受験抜きでは学校の現場はついてきません。生徒は、先生の教え方で変わるものです。教え方、学び方を変えることが大切と分かっているのに、なぜ変えられないのか。
それは、先生方が時代に合わせてアップデートできていないからです。公立校の現状を見ると分かりますが、いままでのまま変わりたくない、あるいは変えられないという先生の方が多いのではないでしょうか。アップデートしようとする先生が、なかなかそのやる気や力を発揮できない。その結果、優秀な先生は公立校から私立校に移ってしまうというケースが増えているように感じます。
森上 教員を10年もやっていると成功体験も増えてくるので、何かを変えようというパワーが出てこない。同じことを漫然と繰り返すということはありますね。