サステナビリティ視点でポートフォリオを見直そう(Seizing)

 次に、サステナビリティ関連でのポートフォリオの見直しという観点があります。

 特に欧米のエネルギー関連企業によく見られる動きとして、2つ挙げられます。

a.既存事業を環境やサステナビリティの観点から再評価し、経営資源の配分を見直す(既存のビジネスモデルにサステナビリティ観点で新たな価値を与える)
b.既存のビジネスモデルポートフォリオ自体を大幅に転換する

 です。

 まずaについて、シーメンスは、前述のとおり環境ビジネスを次の成長領域として見出し、既存の環境保護ソリューション(例:水質浄化/大気汚染防止関連ビジネスなど)やエネルギー使用効率化、そして再生エネルギー関連ソリューションを通じた脱炭素への取り組みに注力することを決めました。

 また、bについても、①で取り上げた、石炭火力発電所建設への地元の強い反対運動から将来の脱炭素へのトレンドをつかみ取ったオーステッドは、エネルギーの主要な供給源を化石燃料ベースの発電から、クリーンエネルギーによる発電(バイオマス、洋上風力)にシフトさせました。

 オーステッドの場合は主要なビジネスモデル自体の変更に踏み込んでいるので、かなり思い切っているといえますが、シーメンスの場合はまずメガトレンド分析から得られた示唆(将来の環境ビジネスの機会特定)から、将来事業環境の観点で既存事業を再評価し、将来あるべき姿から事業ポートフォリオの見直しを行っています。

 これらのケースからは、必ずしもESG/SDGs経営の観点でやみくもに新規事業構築を検討することだけがアプローチではないことがわかります。

 まずは、社内に存在する既存事業が、サステナビリティの関連でどのような価値を生み出す可能性があるか、議論するところからはじめてみることも有効です。

守りのESG/SDGs経営―ステークホルダーを再定義し、お役立ちできることからはじめよう(Seizing)

 1.で取り上げた「攻めのESG/SDGs経営」はどちらかというと顧客や消費者に対してサステナビリティを価値として新たな競争優位の源泉とする、ということがエッセンスでした。

 一方で「守りのESG/SDGs経営」では、自社を取り巻くサプライチェーン全体を俯瞰したうえで、自社のビジネスに関連するステークホルダーを特定し、ビジネスを通じてステークホルダー全体の生活や事業オペレーションの水準向上を図ることを取り上げています。

 まさに、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱したCSV(Creating Shared Value)経営がそれにあたるでしょう。CSVのモデル事例としてハーバード大学のケーススタディでも取り上げられ、前述したネスレは、栄養、水資源、農業・地域開発を重点領域と置き、自らのビジネスで消費者とサプライヤー双方に価値を創造することにコミットしています。

 また、ユニリーバは、ネスレと同じくパーム油や水産物のサステナブルな原料調達に加え、自社の浄水器による安全な飲料水の提供や、石鹸製品の提供による途上国での手洗い教育など、再定義したステークホルダーに対し、素直に「お役立ち」できることからはじめています。

 シスコ・システムズも、20年以上にわたり、シスコ・ネットワーキング・アカデミーと呼ばれる教育プログラムを全世界で展開し、自社製品を活用できるエンジニアを大規模に育成すると同時に雇用機会の創出を図っています。

 サプライチェーン全体でCSVを実現するには、それぞれのステークホルダーの取り組みが最終的な製品価値に転換される必要があるため、強い製品力を持つことが絶対条件になり、チャレンジングであることもまた事実です。

 そのような意味では、当初からCSVの理想形を目指すのではなく、まずは地道に自社のビジネスに関わるステークホルダーを特定し、お役立ちできることを考えながら、徐々に製品価値に転換する形を考えることが現実的ではないでしょうか。

 一方で、注意しなければいけないのは、最終的にはこのようなお役立ちが当初は「コスト」であっても、消費者にとってそれを上回る「価値」を生み出さなければいけないということです。たとえば、ダノンのように、あくまでもCSVの取り組みが消費者への価値に転換されなければ、単なるコスト項目となり、株式市場から厳しい評価を受けるでしょう。

 基本的に、CSVであるかどうかに関わらず消費者価値を体現する強い製品力を有すること、そのうえでCSVを実現することで、さらに高い消費者価値を実現する道筋ができていることが、前提となる考え方といえます。