多くの企業が取り組む「ESG経営」。社会での重要性は高まっているものの定着しているとは言いがたい。しかし、すべてのステークホルダーの利益を考えるESG経営こそ、新規事業の種に悩む日本企業にとって千載一遇のチャンスなのである。企業経営者をはじめとするビジネスパーソンが実践に向けて頭を抱えるESG経営だが、そんな現場の悩みを解決すべく、「ESG×財務戦略」の教科書がついに出版された。本記事では、もはや企業にとって必須科目となっているESG経営の論理と実践が1冊でわかる『SDGs時代を勝ち抜く ESG財務戦略』より本文の一部を抜粋、再編集してお送りする。

ESGイメージPhoto: Adobe Stock

ESG/SDGs経営では組織づくりがカギになる

 ESG/SDGs経営のコンセプトを社内で浸透させようとしても、社内で理解活動が進まない、また業界他社を見てもESG/SDGs経営を積極的にリードしているケースが見られず、なかなか自社単独で一歩が踏み出せないなどで悩む方も多いのではないかと思います。

 そのようななか、時間をかけてESG/SDGs経営の取り組みを発展させてきた海外企業から、以下のヒントを抽出しました。企業経営者のみならず、現場の担当者の方であっても、1歩を踏み出せるような形にしました。

① 外に目を向けて、トレンド変化を察知しよう
② まずは社内に耳を傾け、社内課題/ニーズとリンクさせよう
③ 小さな成功と信頼を積み重ね、大きく展開しよう
④ 制約条件を変えていこう
⑤ 仲間を作って助け合おう

 ESG/SDGsは地球規模の課題に対する取り組みであり、日本企業以外の事例であるからといって距離を置かず、虚心坦懐にその軌跡を学んでいくことが重要です。個別に事例を見ながら紐解いていくことにしましょう。

外に目を向けて、トレンド変化を察知しよう

 まずは「外に目を向けて、トレンド変化を察知しよう」ですが、これはESG/SDGs経営に限った話ではありません。現在、人工知能/機械学習の進展、5Gをはじめとするインターネットインフラの整備やクラウドコンピューティングの普及、半導体の演算処理能力の急速な拡大にともない、すべての産業においてデータを起点にしたビジネスモデルの進化、産業構造の転換が起きています。

 このような著しい事業環境変化のなか、どのように競合他社に先んじて、競争優位性を築くことができるのでしょうか。また、金融市場から指摘を受ける前に、どのように変化の予兆をつかみ取り(ダイナミック・ケイパビリティでいうところのSensing)、変革に向けて一歩を踏み出せばよいのでしょうか。以下の事例がヒントとなります。

 1つ目のヒントは、顧客/ステークホルダーとの対話です。たとえば、航空会社のジェットブルーは、同社が本格的にESG/SDGs経営に方向転換するヒントを、顧客からのサステナビリティに関する情報開示ニーズの増加から、将来のサステナビリティ対応の必要性の予兆としてつかみ取りました。

 顧客との対話から、このような変化の予兆に関するインサイトをつかみ取ることは、一見容易に見えて簡単なことではありません。ジェットブルーは、客室乗務員にかかわらず従業員を会社全体で価値観を共有する「クルー」と呼んでいます。

 ESG/SDGs経営に関わるあるべきスタンスを社内の「クルー」への定期的なフォーカスグループインタビューを通じて抽出しています。「クルー」を顧客と同列に扱い、まず社内で議論を尽くしたうえで、顧客との対話に臨んでいることが、1つの成功要因といえそうです。

 顧客(ジェットブルーの場合は社内の従業員も含む)との対話から得られた将来的な環境変化への示唆を、経営陣が適切に理解したうえで、経営戦略(ここではESG/SDGs経営戦略)に昇華させ、具体的なプランに落とし込んでいます。

 2つ目のヒントは、中長期のトレンドから将来の事業ニーズを見出すメガトレンド分析です。たとえば、シーメンスは2007年の時点で、将来のメガトレンドを都市化、人口動態の変化、地球温暖化、グローバル化の4点から将来のサステナビリティ関連ビジネスの可能性を導出し、環境関連のビジネスポートフォリオの整理を始めていました。

 そのほか、アメリカの化学メーカーであるデュポンも、定期的に世界各地からありとあらゆる分野の専門家を招聘し、自社事業に関連する将来トレンドの議論を行っているとされています。

 2007年といえばリーマンショック間近、その翌年にはアメリカではオバマ大統領が就任し、政府主導でクリーンテック投資が伸長を始めた時期にあたりますが、現在の欧米企業のESG/SDGs経営の取り組みは今にはじまったことではなく、10年単位のメガトレンドを意識した動きであったことは明らかです。

※本記事は『SDGs時代を勝ち抜く ESG財務戦略』より本文の一部を抜粋、再編集しています。