「今回の人事で岸田首相を見直した」。こう語るのは防衛相経験者の一人。「今回の人事」とは首相の岸田文雄が電光石火で断行した防衛省の事務次官交代のことだ。現事務次官の島田和久は元首相、安倍晋三の首相秘書官を6年半も務めた安倍側近官僚。防衛省関係者によると安倍も安倍の実弟で防衛相の岸信夫も「島田続投」で動いていた。
島田は秘書官時代に安倍が推進した一連の安保法制の整備を手掛け、防衛省に復帰後も安倍と深い関係が続いていたという。ましてや岸田が米大統領のバイデンに「防衛費の相当な増額」を伝え、ウクライナ情勢を背景に日本の安保防衛政策が一大転機を迎える中で防衛省の事務方ナンバーワンの影響力と役割は極めて大きい。
とりわけ今年末には国家安全保障戦略など日本の防衛・安全保障の土台となる防衛3文書の改訂が予定される。このため政策の継続性を理由に防衛省内にも島田続投を当然視する空気が漂っていた。それを岸田が一蹴した。6月16日午後、岸田は突然、衆院第1議員会館の事務所に安倍を訪ねている。翌日に防衛省の新しい幹部人事の閣議承認が予定されていたからだ。岸田は安倍に報告するためにわざわざ足を運んだのだった。
岸田が新次官に指名したのは島田と入省同期の防衛装備庁長官の鈴木敦夫。温厚な人柄と巧みな英語力で政府内では知られた存在だったが、防衛装備庁長官はいわば“上がりポスト”。異例の次官への抜てきは岸田の強い決意の表れといってよかった。岸田側近は今回の人事に関して「かなり前から決めていた」と証言する。前出の防衛相経験者はこうも指摘した。