首相である岸田文雄の「防衛費増額」発言の波紋が広がる。5月23日の米大統領ジョー・バイデンとの共同記者会見でその発言は飛び出した。
「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明し、バイデン大統領からは、これに対する強い支持をいただきました」
なぜこの場で岸田は防衛費に関してあえて「相当な」という表現を使ったのか。外務省によると、英文では「substantial」と表記された。つまり、「かなりの額」という意味が込められている。岸田が唐突に増額を持ち出したのは、ロシアによるウクライナ侵攻が背景にあることは言うまでもない。
「G7(主要7カ国)の国々がそれぞれの役割を果たすという中で、(防衛費が)従来のままというわけにはいかなかった」(岸田側近の政府高官)。もともと政府内では年末までに見直すことになっている「戦略3文書」(「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」)に合わせて発表する方針だった。そこにバイデン来日が巡ってきた。政権幹部は「外圧によって増額するのではなく、日本側から表に出す一番いいタイミングだった」と解説する。
岸田政権の判断に大きな影響を与えたのが国民世論の動向だった。5月の連休明けに実施された各メディアの世論調査で内閣支持率はおおむね60%を超えた。加えて防衛費の増額問題について「増やすべき」という回答が6割以上を示した。国政選挙を控えたこの時期の防衛費増額問題は、増税問題と並んで「タブーの中のタブー」(自民党幹部)と言ってよかった。