壁を超えたら人生で一番幸せな20年が待っていると説く『80歳の壁』が話題になっている今、ぜひ参考にしたいのが、元会社員で『島耕作』シリーズや『黄昏流星群』など数々のヒット作で悲喜こもごもの人生模様を描いてきた漫画家・弘兼憲史氏の著書『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)だ。弘兼氏のさまざまな経験・知見をもとに、死ぬまで上機嫌に人生を謳歌するコツを説いている。現役世代も、いずれ訪れる70代、80代を見据えて生きることは有益だ。コロナ禍で「いつ死んでもおかしくない」という状況を目の当たりにして、どのように「今を生きる」かは、世代を問わず、誰にとっても大事な課題なのだ。人生には悩みもあれば、不満もあるが、それでも人生を楽しむには“考え方のコツ”が要る。『死ぬまで上機嫌。』には、そのヒントが満載だ。
※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』より一部を抜粋・編集したものです。
一人暮らしを「妄想」してみる
配偶者と適度な距離を取り、家事の能力を高める。この二つを両立させるには、一人暮らしを「妄想」してみるといいです。僕が理想とするのは、それぞれが別々の家に住み、お互い自由に暮らす夫婦です。冠婚葬祭など、二人揃って参加する必要が生じたら一緒に出かける。あるいは、定期的に食事会や映画鑑賞などの機会を作って二人の時間を楽しむ。そうやって基本的にはそれぞれが自立して暮らしつつ、何かを共有する時間を作るライフスタイルにすれば、お互いに気持ちよく連れ添えると思うのです。
もっとも、現在家族と一緒に生活している人が、単身者用のアパートを借りて一人暮らしをするというのも非現実的です。そこで提案したいのが、一人暮らしを「妄想」してみることなのです。ゲーム感覚で、期間限定で一人暮らしをするという試みです。
家族に向かって、「今日から1週間、家の中で一人暮らしをしてみようと思う。普通に会話するけど、あとは何も構わなくていいから」と宣言します。そのうえで、生活のすべてを一人で行ってみるのです。そこまでかしこまってきっかけを作りづらいならば、配偶者が友人と宿泊をともなう旅行に出かけたタイミングなどに合わせれば取り組みやすいと思います。
安易に家族を頼らない
いずれにしても、料理はすべて自分で作り、自分の洗濯物は自分で洗濯します。仮に洗濯するときに洗剤が切れているのに気づいても、安易に家族に尋ねたりはしません。ストックがどこにあるか自力で探します。なければ、自分で買いに行きます。とにかく人の手を借りないのがポイントです。
自炊に備えてスーパーに買い出しに行き、食材を自分で調達します。節約生活を意識して、1食300円という予算の枠組みで献立を組み立ててみるのもいいでしょう。自炊なら十分可能なことです。先日、僕はスーパーでアスパラガス5~6本入りの束が98円で売られているのを見つけて、思わず小躍りしたい気分になりました。若い頃、アスパラガスは高価な食材だったので、安く手に入るとありがたみが増すのです。
そんなふうに特売品の野菜や肉などを買い、「オリーブオイルで炒め、辛めの味つけで仕上げようか」などと考えます。1000円札1枚あれば、案外いろいろな食材が手に入るものです。買ってきた食材で楽しそうに料理をしていると、家族がおもしろがって話しかけてくるかもしれません。そういうちょっかいは適当にあしらって、一人暮らしの「妄想」にいそしみます。
自分自身をマインドコントロール
僕は、いわゆる「鍵っ子」として育ちました。両親とも仕事をしていたので、勝手におやつを食べて親が帰ってくるのを待ちながら一人で遊んでいました。そんな経験からか、一人で時間を過ごすことがまったく苦になりません。むしろ一人の時間を満喫するのが喜びです。
どうやら世の中では、こういう感覚の持ち主は、まだ少数派のようです。「高齢者が一人ぼっちだなんて寂しい」といった否定的なイメージを持っているみたいですね。一人暮らしは寂しいと感じている人は、「自由である」というポジティブな側面に目を向けたほうがいいです。一人暮らしのよいところに着目して、それを最大限に享受するという発想に切り替えるのです。
一人暮らしなら好きなときに寝起きできますし、食事のタイミングも自由。誰からも制約を受けず、誰にも気を遣わずに暮らすのは最高です。僕からすれば、一人が寂しいなどという発想が理解できないくらいです。「一人暮らしは楽しいものだ」。そう自分自身をマインドコントロールすることが肝心です。
※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。