各国で賃金は上がっているのに
日本は労働者、消費者を貧しくさせる

 こんな話をすると脊髄反射で、「最低賃金を大きく引き上げると、中小企業が倒産して失業者が大量にあふれかえるので、自民党は責任政党として慎重に判断をしているのだ」という反論する自民党支持者の方も多い。しかし、実はそういう珍妙なロジックを唱えて、最低賃金を引き上げない国は世界でもかなり珍しい。

 例えば、米国のロサンゼルスでは7月1日から、最低賃金がこれまでの時給15ドルから16.04ドル(日本円で約2179円、6月22日現在)へと引き上げられる。これは中小零細だからと免除されるようなものではなく、全ての事業所が対象だ。また、法定最低賃金に物価スライド制が採用されているフランスでも、5月から最低賃金が10.85ユーロ(日本円で約1552円、同上)にアップした。オーストラリアの公正労働委員会も7月から現在の最低賃金20.33豪ドルから21.38豪ドル(日本円で約2006円、同上)に引き上げる。こちらも5.2%の引き上げ幅だ。

 アジアも普通に最低賃金を引き上げる。ベトナム政府も7月1日から最低賃金を月額で全国平均6%引き上げる。これは世界的な物価高とかではなく「平常運転」で、20年1月1日にも平均5.5%引き上げている。マレーシアでも5月1日、地域により月額1000~1200リンギットだった最低賃金が全国一律で1500リンギット(約4万6305円)まで一気に引き上げられている。

 これらの国々は、今回の世界的な物価上昇で慌てて賃上げをしているわけではなく、それ以前から継続的に最低賃金を引き上げているのだ。しかし、そこで日本のように、「最低賃金を引き上げたら倒産が増えて国内は地獄になる」みたいなヒステリックな終末論が叫ばれることはない。

 もちろん、どの国でも反対する中小企業経営者はいる。しかし、物価が上昇して価格が上がるのが当たり前のように、物価が上昇すれば賃金もそれにともなって上がっていくのは経済の常識である。むしろその好循環を後押ししないと、経済は成長しないという考え方がベースにある。

 だから日本のように「物価は上がったけど、今こそ辛抱の時だ!」なんて精神論を唱えて、労働者=消費者を貧しくして、自国経済を冷え込ませるようなことはしないのだ。

「いや、韓国を見ろ!最低賃金を引き上げたことで今は地獄のようになっているぞ」とか言う人もいるが、実はそれはウクライナ報道と同じで、「日本人は日本人がハッピーになれるような国際ニュースしか耳に入れない」といういつもの悪いクセだ。

 最低賃金を引き上げても失業率には影響がないという海外の論文を紹介して、最低賃金引き上げの必要性を唱えるデービッド・アトキンソン氏の「反論」を引用しよう。

<それはやはり日本のマスコミと日本の評論家の中身のなさを反映しているだけですね。あの時(韓国が最低賃金を引き上げた時)に、失業率はボンっと跳ねた。日本では絶対にするもんじゃないって。(マスコミも)いいこと言うじゃんって。
ただマスコミはそれしか見ないですから。その後どうなったかって、みんなもう無関心・思考停止っていいますか。あの2回目(賃上げを)やった後に、韓国の労働生産性は日本より初めて上にいったんです>(nippon.com 21年10月25日

 確かに冷静に考えれば、「最低賃金を上げたら失業者増」というストーリが思考停止の賜物だということはわかる。