NECやAGCにスタンフォードの学生が興味津々の理由、『両利きの経営』著者に聞くPhoto:123RF

日本でベストセラーとなったビジネス書『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』の増幅改訂版が6月24日に発売された。著者の一人であるスタンフォード大学経営大学院のチャールズ・オライリー教授は、同校の授業でNECやAGCの事例を教えている。スタンフォードの学生たちは日本の長寿企業の改革をどう見ているのか。また、「両利きの経営」を実践する上で欠かせない、経営者必見の五つのポイントについて解説してもらった。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)

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「両利きの経営」著者が
NECの変革に注目した訳

佐藤智恵 オライリー教授は、スタンフォード大学経営大学院で選択科目「既存組織における起業家的リーダーシップ」を担当しています。授業では、どのような日本企業の事例を取り上げていますか。

チャールズ・オライリー この授業の主題は、「大企業の経営者や管理職は、どうすれば大組織の中で起業家のようなリーダーシップを発揮できるのか」。授業ではNECAGCの事例を教えています。

 NECは日本企業の中でも積極的に「両利きの経営」を実践している会社で、私にとっても非常に興味深い研究対象です。

 先ほど、日本の製造業企業が主力製品のコモディティー化の問題に直面していること(前編「『両利きの経営』著者が指摘、日本企業の多くがイノベーションを勘違いしている」参照)をお伝えしましたが、NECも同様の問題を抱え、近年、同社の成長は伸び悩んでいました。

 素晴らしい組織能力、技術を持っている。世界市場へ参入していくための諸条件も整っている。顧客インサイトも蓄積されている。ところが、こうした自社の潜在能力をイノベーション創出に生かしきれない状況が続いていたのです。

 そこでNECは、既存事業部門とは別に新規事業開発部門を設立し、その部門を核に新たなイノベーションを創出することにしました。2013年には「ビジネスイノベーション統括ユニット」(現・グローバルイノベーションユニット)、18年にはアメリカのシリコンバレーに新会社「NEC X」を立ち上げ、既存事業部門ではできないことに挑戦しようとしてきました。

 現在、NECは森田隆之社長のもと、さらに「両利きの経営」を推進しようとしていますが、授業では「あなたがNECの社長だったら、コア事業部門と新規事業部門をどのように併存させていくか」「NECのケイパビリティーをどのように新規事業に生かすか」といったテーマで議論していきます。