「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出てこないのか?」。この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の『起業大全―スタートアップを科学する9つのフレームワーク』(ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に評価額1000億円以上の未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を創造する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンに成長するためには、経営陣が全てのカギを握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏のメッセージ。同書のエッセンスを抜粋してお届けしてきた本連載。特別編として、日本のスタートアップがさらに今後、活性化していくために必要な視点や条件などについて、田所氏の書下ろし記事の第3回をお届けする(全7回を予定)。
アメリカの経済は、まさにユニコーン企業が伸ばしてきた
よく「失われた30年」などと言いますが、TOPIX(東証株価指数)とS&P500(S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社が公表するアメリカの株式市場の株価指数)の2つで何が違うかというと、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon.com、Microsoftのアメリカ大手IT5社の略)を除いたS&P企業の成長率と、TOPIX企業のそれとは、ほぼ同じなんです。
でも、GAFAMの成長分だけが異常に高いので、言ってみれば、それだけで伸びているのです。特に、2010年代に4Gが出てきて、クラウドが使われるようになって、スマホを持つ人が増えて、SNSが広く生活に浸透してきました。つまり、世界中の人々の生活が、GAFAMで変わったわけなんですね。
それによって、彼らはこの10年間で時価総額が10倍になったのです。おそらく全社を足して50兆円ぐらいでした。
ただ、去年だと、このGAFAMを足して900兆円ぐらいいきました。これがプライム、スタンダード(東証一部、東証二部)を足した金額よりも大きいのです。
では、それ以外の企業はどうだったかというと、ほとんど伸びていないのですね。
なので、端的に言うと、アメリカ経済はまさにユニコーン企業が伸ばしてきた。牽引してきたというのは言えるのかなと思っています。
今の日本は「停滞しているけど安定している」みたいな状態
ただ、著作家の山口周さんもおっしゃっていますけれど、じゃあ、今の日本の状態がはたして本当にダメなのかと言うと、そこはどうでしょうか。
アメリカの経済がいくらすごいと言っても、それ以外の部分ではどうか。悲惨な銃乱射事件が頻繁に起きていますし、インフレが3倍になったりして、僕もアメリカに長く住んでいましたけど、今は、絶対に住みたいとは思わないですね。
それに比べれば、日本は断然治安がいいし、山口周さんが『ビジネスの未来』で書かれていたように、ある意味、今の日本は幸せの高原状態というか、無消費者社会というか、もういい感じで経済が停滞しているけど「幸せです」みたいな状況ではないでしょうか。おそらく、幸福指数を測ったら、日本って意外と高いと思うのです。
なので、相対的に見てデフレで日本はすごく安くなったとか、賃金が30年間上がらないで、逆に下がっているとかはあるんですけど、ただ一方で物価も安いんです。
もちろん、東南アジアの国々もどんどんキャッチアップしてきて、世界的に見たら日本の国力は落ちている、みたいなことは事実だろうとは思います。
今の日本は「停滞しているけど安定している」みたいな状態だと思います。
これが本当に人が幸せでないかというと、べつにそんなこともなくて、みんなそこそこ幸せを感じていたりするのではないでしょうか。
日本の成長をリードするスタートアップが育つための
支援やサポートをしたい
日本は、インフラ(社会資本)がしっかりして、国民皆保険だったりするわけですし、1日1000円あったらそこそこ楽しめますよね。
コンビニに行けばおいしいものもあるし、吉野家で400円のおいしい牛丼を食べられるわけなんです。こんな国は、なかなかないと思います。
ただ、一方で懸念すべきなのが、特にGAFAMもそうですが、グローバルでハイクオリティなものの競争となると、負けてしまうところがあると思うんです。
日本国内で勝っていたとしても、じゃあ、他の国と競って世界レベルで通用するかというと、なかなか通用しないみたいなところがあったりしますね。そのあたりが、結局、徐々に国が衰退していっている要因なのかなと思います。
だからこそ、もっともっと元気なスタートアップにどんどん出てきてもらって、日本経済を活性化してほしいですし、成長をリードするようなスタートアップが育つための支援やサポートをしていくのが、私たちユニコーン・ファームのミッション・ビジョン・バリューだと考えています。
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務めた。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『起業大全―スタートアップを科学する9つのフレームワーク』(ダイヤモンド社)等がある。