参加者の信頼に応えるためにも
無事に終わらせることに120%注力した

抗原検査キット希望者へ事前配布された抗原検査キット(2021年)

 そこで、アーティストや出店者含め、スタッフ全員が事前にPCR検査を受けてくるということにしました。来場者にも希望者全員に抗原検査キットを事前配布し、会場入り口にも検査場を設置。酒類の持ち込みを禁止し、入場時には全員、体温チェックと酒類の持ち込み検査を行う形に決めました。

 でも、何せスタッフは約6000人です。PCR検査なので、事前に医療機関で検査して結果が判明してからでないと苗場へ来ることができません。さらに、来場者用の抗原検査キットも3万個以上、用意して発送する必要がある。果たしてこれだけの数の検査キットを集めることができるのか。課題や問題が山積みでした。

 こういった事前検査や、お酒の提供をしないこと、そして深夜の演奏を中止することなどは、すべて「自主規制」の範囲なんですね。政府のガイドラインにはないわけです。「酒を飲んではいけない」とは書いていません。政府のガイドラインは当然守りながら、こういった独自のルールも設けていきました。開催の1カ月前から国内の感染者数が急速に増え始め、開催初日はピークでした。そのため、本当に短い時間の中で、できる限りの対策を次々と打ち出していきました。

エントランス付近に設けられた検査場エントランス付近に設けられた検査場(2021年)

――スタッフや来場者の感染症対策以外にはどのような困難がありましたか?

 いやあ、たくさんあり過ぎて……。時間軸によって常に悩みは変化していきました。とくに(2021年)1月頃は、海外からアーティストを呼ぶことをどのタイミングであきらめなければならないか、これには本当に悩みましたね。フジロックにおいて重要な部分ですので。結果、国内アーティストのみでの開催という、貴重で特別なフジロックになりました。

――国内のアーティストでも、直前で辞退するケースがありました。

会場内の複数個所に設置された消毒液会場内の複数個所に消毒液が設置された(2021年)

 もちろんアーティストの皆さんも、相当、悩んだと思います。ですので、観客もアーティストも、参加してくれた方々には感謝しかありません。信頼に応えるためにも、無事に終わらせることに120%注力しました。ただ、今思えば、少し自主規制が強過ぎたかなという思いも少々ありますが。

――直前に不安になり、参加をキャンセルしたお客さんは多かったのでしょうか?

 そうですね。2020年のチケットを保有している場合はそのまま2021年のフジロックに有効でしたが、開催の約半年前の2021年3月26日に、コロナ禍での開催において不安のある方はチケットの払い戻しの対応をさせていただく旨、そして、海外からアーティストを迎えての開催は断念し、国内のアーティストのみによる開催となる旨をアナウンスしています。それでも約半数の方は払い戻しせずに残ってくださいました。

ステージ前に埋め込まれているソーシャルディスタンス用の目印ステージ前には、ソーシャルディスタンス用の目印が埋め込まれていた(2021年)

 2021年7月30日には、会場内の飲酒の禁止を発表しました。8月の開催直前でも、新型コロナウイルスに羅漢(りかん)した人はもちろん、やはり参加に不安がある方は、払い戻しに対応させていただくことにしました。結果、全体の3〜4割の方が参加を断念され、最後の最後に残った来場者が3万5449人です。

――新潟県や湯沢町から反対はありませんでしたか?

 反対はありませんでした。指導はありましたが、それは国のガイドラインとはまた別の部分ですね。そもそも国のガイドラインは順守していたので。

新潟県や湯沢町側との信頼は厚く
フジロックの経済効果は233億円

――コロナ禍におけるイベントの開催を巡り、主催者側と開催地側の関係性がこじれるケースはよく耳にしますが、フジロックは今回のようなケースでも、開催地との関係が良好な印象です(※4)。1999年以来続く、開催地である新潟県や湯沢町側との信頼が厚いということでしょうか。

※4 開催からしばらくたった2021年9月10日、湯沢町議会にて、田村正幸町長は「会期中に地域の医療機関への緊急搬送もなく、地域の負担も最小限だったと考えています」「無事終わったということで正直ホッとしているのが心境であります」と語っている。

 それは圧倒的にそうですね。あと、経済効果が大きいということもあると思います。フジロックは、日帰りもしようと思えば不可能ではありませんが、宿やテントに泊まるというのが(計画の)ベースです。そのため、湯沢町以外にも影響は波及しますし、アウトドアグッズなども非常に売れます。外部の調査によると、経済効果は233億円ともいわれています(※5)。

※5 江頭満正氏(理化学研究所客員研究員/元尚美学園大学准教授)が、2019年(コロナ禍前)のフジロックの経済効果を233億円と算出。参考記事

――今年の経済効果の試算はありますか?

 動員数をベースに試算したりするので、まだありません。コロナ禍で、買い控えや、出不精になっている人もたくさんいるので、動員数は直前にならないとなかなか読めません。今年のゴールデンウイークも、人出はすごかったですが予測ではわからなかった。

 今は、レジャーの状況というのは直前にならないとわからないんですね。新型コロナの(感染や変異株の)状況、それを取り巻く政治的・経済的な環境、人々の心理など、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。それらが良い方向へ進み、夏休みの過ごし方の選択肢のひとつとして、フジロックが選ばれることを願っています。

――今年のフジロックについてお聞きします。例年のフジロックと比較し、ステージ数含め、会場のレイアウトに変化はありますか?