フェス参加者の高齢化と
「不便を楽しむ」のバランスについて

キッズ・ランド「キッズ・ランド」 Photo by HK

 いわゆる客層の「高齢化」とそれに伴う課題については、10年ほど前から指摘されていて、少しずつですが(対策を)積み重ねています。ただ、やはり自然の中なので、広範囲に渡って屋根を設置したり、道を整備したりするわけにはいかないんです。

 そうした環境下でも、「家族で参加したい」と思ってもらえるようなフェスティバルをつくっていくということだと思います。

 あとは知恵や工夫の共有ですね。夫婦で交代して子どもを見るとか、家族旅行の一部として遊びに来るとか、(単独ライブではなく)フェスティバルですので、それでも十分、楽しめると思います。「子どもが生まれる前の半分ぐらいしかライブは観れなかったけれど、それ以上に充実していたよ」と感想をもらったこともありました。

キッズの森「森のプレイパーク」 Photo by HK

 また、ツイッター(https://twitter.com/kodomofujirock)などで、子連れで参加する音楽フェスをみんなで助け合って楽しむための情報を発信したりもしています。

 キッズランド内のテントは、これまでは一度に何十組もの親子が、昼寝したりくつろげたりできるスペースでしたが、昨年(2021年)、感染症対策の観点から、個室にして時間制で入れ替わる形にしました。去年8部屋だったのが今年は12部屋になる予定です。ボードウォーク(会場内の、木の板張りによる遊歩道。重機を使わずに有志の手でつくられている)も年々、エリアが広がっています。「渡り鳥が休むための小枝を浮かべる」ではないですが、自然の中という過酷な環境において、最低限の部分を確保できるようにはしています。

 コロナ禍もそうですが、ハードルがあればそれを乗り越え、そこで得た知見を次の糧にしていく。毎年、少しずつ進化していくのがフジロックだと思っています。

激動の時代における
音楽フェスの役割とは?

――これまで、世界は何度も大きな危機を迎えていますが、現在のコロナ禍とウクライナ戦争も、間違いなく、その大きな危機のひとつといえます。このような世界情勢の中、音楽フェスの役割は、何だと思いますか?

 これは日高(SMASHの日高正博代表)が言ってきたことですが、音楽を中心にしてこれだけの人が集まるということは、まさに、音楽フェスというのは、新聞や雑誌と同じ「媒体」であると。一面はヘッドライナーが飾るかもしれませんが、社会の課題を紹介する社会面もあれば、環境面や経済面もあるでしょう。

 今回でいえば、ウクライナ戦争で困っている人たちを支援するためのアクションをお客さんに知ってもらったり、応援を呼びかけたりする場もあります。会場内では例年、複数の映画の上映を行っていますが、今年は1970年の映画『ひまわり』(※8)のHDレストア版(オリジナルネガが消失しているため、最新技術を駆使して映像や音響を修復)も上映します。ラブストーリーですが戦争の悲劇を描いている。

※8 第二次世界大戦下の夫婦の物語。今回のウクライナ戦争で、ロシアの侵攻によって占領されたウクライナ南部・ヘルソン州が舞台とされている。一説によると、撮影地はウクライナ中部の都市ポルタワ付近とも(参考:NHK鹿児島局「名作映画「ひまわり」に隠された”国家のうそ”」)。

「音楽フェスの役割」というとおこがましいかもしれませんが、音楽フェスが「媒体」であるならば、世の中で起きていることに向き合い、それを伝える義務があります。

――世界中からアーティストや観客が集まる音楽フェスというのは、ひとつのメディアであり、訪れる人に世界のできごとを伝える役割も担っているということですね。

石飛智紹取締役Photo by HK

 そうですね。もちろんそういうことをしなくても済む社会になってほしいとは思いますけれど。とくにフジロックは自然の中で開催しているので、環境問題を中心に、遊びに来たら少しでもそうしたことに触れて帰っていただけるとありがたいなと思っています。

 自然にほんろうされながら過ごすわけですからね。なぜ急にこんなスコールがくるのだろう、地球温暖化が関係しているのだろうか。なぜここまでゴミの分別をしなくてはいけないのだろうか。なぜゴミ袋を入り口で配布しているのだろうか。ラーメンの器が食べづらいし熱い、なぜわざわざ紙を使うのだろうか。フジロックでは20年ほど前からプラスチックの使用は極力、避けています。こうした、今でいうSDGs的な発想を持ち帰るかもしれません。

 こういった気づきがちりばめられているのも、フジロックの特徴ともいえます。少なくとも瞬間的にはあの場所が皆、好きになってくれているはずです。となると、そこを汚したくはない。来年も来られるように大切にしたい。そのような気持ちになれるマジックが、自然の中で開催される音楽フェスにはあります。

 それには何より、素晴らしい音楽があり、アーティストがいて、人がいる。おいしいお酒や食べ物もある。だからこそ気づくことができる。そのような環境を整え、準備しておくことも役割といえます。

――たしかに、真っ向から伝えられても押し付けがましさを感じてしまうことがあるかもしれません。ぶらりと会場を散歩し、楽しみながらインサイトを得ることができるのはフジロックの大きな特徴かもしれませんね。最後に来場者へ伝えたいことはありますか?

 今年はようやく、苗場で乾杯ができそうです。だいぶいつものフジロックに近づきつつあります。私たちのほうでできる限りの外堀はきっちりつくるつもりで進めていますし、コロナの状況などまだ予断は許さないので、お客さんにははめを外さないよう注意していただく必要はありますが、コロナ禍から半歩抜け出して、本来ある自由を謳歌してもらえればと思っています。