ピーター・センゲ氏が多大な影響を受けた
エドワーズ・デミング氏との出会い

 もちろんです。デミング博士とは、彼の晩年に交流を持つようになりました。当時、私たちはフォード社と仕事をしており、その縁で知り合ったのです。

 デミング博士は品質管理の「カイゼン」の歴史研究で有名ですが、彼の思想自体を伝える本はあまりありません。セミナーにはよく参加していたので、その時の講義ノートが、ある意味、彼の考えを後世に残せるものといえます。

学習する組織Photo by Teppei Hori

 博士の第一原則は、「システムを改善しなければならない」ということです。

 博士はもともと統計学者であり、統計的サンプリングや統計的プロセス分析など、統計学的な素養がありました。でも、それだけでは「システム」を完全に理解することにはならないことも博士は理解していました。

 システムの技術的な部分は、データに基づいて分析可能ですが、一方でシステムには人間的な部分も含まれているからです。品質管理が本当にうまくいっている企業は、技術の高度化だけでなく、人間性も向上していることを知っていたのです。

 それまでは文通のみだった博士と初めて顔を合わせたのは、ワシントンDCにある彼の家を訪れた時でした。90歳近くになっていた博士にリビングルームでお茶を勧められ、じっくりと話をしました。本当にすばらしい時間でしたね。

 博士は私の著書『学習する組織』を取り出し、マーカーをつけていたページをパッと開き、「私はこれを理解したいのです。システムを理解する方法を」と言ったのです。

 感動的でした。あの有名なデミング博士との面会ですから、たくさん質問を準備していたのですが、何と彼の方から質問をしてくれたのですから。システムを本当に理解するにはどうしたらいいのか、と。