カイゼンを本当にうまくやるためには
リレーショナル・フィールドの理解が必要

 私たちの専門分野の学術的なルーツは、品質改善の歴史研究のルーツとは異なりますが、工学や、複雑な非線形のフィードバック・システムの理解、心理学や社会心理学、創造的なプロセスの中にもルーツを求めることができます。約100年の歴史があり、統計データはありますが、人間のシステムや社会システムの複雑性を理解するには、まだまだ発展途上です。

「人が集まってものをつくれるのはなぜか?」ということについては、アカデミアの世界以上に、演劇やダンス、スポーツチームなどの分野の方が、研究が進んでいますよね。というのも、大学では、みんなで一緒に研究したりせず、新しいものを生み出すというより、分析的であることが主になります。

センゲ氏

 しかし、ビジネスとはイノベーションであり、新しい価値の源泉を生み出すことです。

 いずれにせよ、私たちの研究のルーツは、非常に複雑で、急速に進化している分野でもあります。デミング博士は、早い段階でそれを見抜き、注目してくれていたのだと思います。

 彼がこうも簡単に心を開いてくれたのは、フォード社という共通項があったからでしょう。博士と深く関わってきたフォード社の多くのチームは、システム思考やメンタルモデル、共有ビジョンの構築といった、学習する組織の5つのディシプリンのツールを活用することで、統計的プロセス分析や、カイゼンから学んだ成果を増幅できると考えていたのです。

 特に、カイゼンを本当にうまくやるためには、データの収集や分析だけでなく、何らかの脅威にさらされても安心して働けるように、互いの信頼関係を構築する必要がある。

 それには、人間や社会というリレーショナル・フィールドの分野においても、深く理解していなければならないからです。

 これがデミング博士との出会いです。彼は、システムを理解する方法を知りたかったのです。