個人投資家による仕組み債の利用は
あまりにもリスクが大きすぎる

 ところが、これを個人投資家が利用する場合、話は違ってくる。「仕組み債を買う」ということは個人がそのお金をひとつのオプション取引に投入するのと変わらないからだ。

 これはあまりにもリスクが大きすぎると言ってよいだろう。直接株式を買うのであれば下落のリスクはある代わりに上昇によるリターンもある。リスクとリターンはトレードオフの関係だから、これは当然である。

 ところが仕組み債の場合、株価はいくら上がっても受け取るのは決められた金利だけである。その金利が普通の社債に比べて高いというのはオプション料を受け取っているからだ。

 しかも、下落によって損失が生じるというのはどこまで下がるかはわからない。仮にスタートした時に比べて償還時に対象となる株価指数や個別株価が半値になっていたとしたら、投資した金額は半分になって戻ってくるのだ。ただし、満期受取額が株価に連動するのは、対象指数や株価があらかじめ決められた一定の水準を一度でも下回った場合のみである。

 この水準を下回ることを“ノックイン”と言う。うまくいって期間中にノックインしなければ元本と利息は受け取ることができる。ただ、昨今のように株価変動が大きくなってくると、ノックインということは十分に起こり得ると考えるべきだろう。

 実際、冒頭で紹介した紛争事例の多くはノックインし、その後も株価が低迷したことで大きな損失を被ったこと、そしてその事実が正確に説明されていなかったことに起因している。

 また、「早期償還条項」といって、あらかじめ定められた判定日における参照指数・銘柄の価格が決められた水準を上回れば、償還日より前に償還されることもある。これによって当初想定していた期間に受け取れるはずと予定していた金利を得ることができなくなることにも注意が必要だ。

 早期に償還を受けてお金が返ってくると、投資家としては引き続き同じような仕組み債で高い金利を得たいと思うだろう。ところがその時点では既に参照指数・銘柄の価格が上昇しているわけだから、その後の下落リスクはそれまでよりも高くなるということも見逃せない。

 加えて仕組み債の手数料は普通の投資信託等に比べると極めて高い。通常は5~7%ぐらいにもなる。昨今の投資信託は手数料が下がり、信託報酬でも0.2%程度のものが多いことを考えると、この手数料の高さは際立っている。

 この理由は通常のオプション取引で受け取るオプション料をサヤ抜きしているからだろう。つまり業者の取り分が極めて多く、もうかるからだ。これだけトラブルが多いにもかかわらず金融機関が仕組み債を販売するのはこの取り分の多さにあると言ってよい。