資産所得倍増よりも「給与所得向上」を優先すべき当然の理由Photo:Dan Kitwood/gettyimages

 岸田文雄首相は先頃欧州を歴訪した際、5月5日にロンドンの金融街シティーで講演した中で、「『資産所得倍増プラン』を進める」と明らかにした。これに関しては正直なところ、あまり評判は良くないようである。

「どこが新しい資本主義なのか?」「『金融所得課税を』と言っていたのに、これは矛盾ではないのか?」といった批判の声がある一方で、金融業界にとっては「貯蓄から投資へ」が一層進むとの思惑からおおむね好評のようだ。

「資産所得」とは一体何か?

「資産所得」というのは主に金融資産が生み出す収益、具体的には利息や配当、場合によっては値上がり益などによって生まれる所得をいう。筆者は、資産所得倍増を目指すこと自体は悪いことではないと考える。NISAなどの投資を優遇する非課税枠が拡大するのは結構なことだ。

  しかしながら、結論から言えば、優先順位としてもっと大事なのは資産所得を増やすことではなく、働く人の9割を占める給与所得者の所得を上げることだと筆者は考えている。給与所得が増えれば当然金融資産も増える。資産が増えればそこからの所得も増えるのは当然である。

 したがって最も大切な施策は、「貯蓄から投資へ」をさらに推進することではなく、給料を上げることなのである。そもそも資産所得を上げるといっても、それは現在、一定額以上の資産を持っている人でなければやりようがない。

 日本経済新聞の記事によれば、2018年の1世帯当たりの資産所得は15.8万円だそうである。ということは倍増しても15万円増えるだけだ。もちろん増えないよりは増えた方が良いが、これを増やすためには個人がリスクを取って投資する必要がある。だからこそ「貯蓄から投資へ」と言われるわけだが、投資したからといって自動的に増やしてくれるわけではない。

 投資による収益というのは「リスクを取る見返り」としてしか得られないのだから、人々の間に十分な覚悟や心構えがなければ、一時的には資産が投資性商品に移ったとしてもまた元に戻ってしまいかねない。これは過去、バブル崩壊やリーマンショックなどで我々が何度も経験してきたことである。