うまくコミュニケーションできないことからくる孤独感、低い自己肯定感、SNSによる誹謗中傷やバッシングなど、今、生きづらさをかかえる人が増えています。そんな中にあって、毎日を心安らかに、快適に過ごしていくためには、どうすればいいのでしょうか? 発達障害(ADHD)、うつ病など、生きづらさを抱えながらも精神科医として活躍するバク先生は、ツイッターでのつぶやきが共感・絶賛され、今、人気急上昇中。バク先生の初の著書『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす 生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』(ダイヤモンド社)の中から、生きづらさを解消するための実践的なヒントをご紹介してきた本連載。前回に続き、今回も読者の方からのお悩み相談に対してバク先生からのアドバイスをお届けします。
「臆病」「気が弱い」、八方美人で「ダメな人間」と
評価されているようですが…
皆様、こんにちは。バク@精神科医です。
この世の中には色々な悩みがあると思います。それでも見方を変えたり、色々な視点を持つことで「あれ、そこまで悩まなくても良かったのかな?」と思えるようになることがあるかもしれません。
本連載が、皆様のストレスをなるべく減らして、少しでも笑顔やリラックスのためのヒントになれば幸いです。では、本日の質問にいきましょう。
【質問】相手に気に入られようと、職場での会話などで必要以上に相手の話に合わせてしまったり、相手の意見とちがった意見を言ったりすることが苦手です。自分に自信がなくて、八方美人なのかもしれません。自説を堂々と主張したりできる人がうらやましいのですが、こんな自分でもいつかは、そんなふうに変わることができるのでしょうか?
質問者さんは、自分のことを「臆病」「気が弱い」と思い込み、八方美人で自分の意見が持てないから「ダメな人間」と評価されているようです。
確かに、今の社会は何でもかんでも「自分らしさ」「自己主張」「アピールポイント」と独自性がある社会人を求め、それが良いように表現されがちです。しかし、学校では全く逆の価値観ではなかったでしょうか。
「目立つな」「校則を守れ」「皆と同じようにしないとダメだ」など、算数の解答ですら学校が求めている解き方以外は、減点か0点にされましたね。それなのに、社会に出た途端「個性を出せ!」と言われたら、頭がついていきませんよね。
人間は大きな変化を嫌う生き物
しかし、職場の上司がそうは言いつつも、もし新人が「従来のシステムが非効率的なので、新しいデータ管理方法を考えてみました」と提案しても、上司は「厄介な新人がきた!」としか思わないでしょう。
なぜなら、人間は大きな変化を嫌う(変化にはエネルギーが必要なので省エネモードで動きたい動物には望ましくないことです)生き物なので仕方がありません。
質問を振り返ると①「相手に気に入られたい」、②「必要以上に相手に合わせてしまい、ちがった意見を言うのが苦手」、③「自説を堂々と主張できる人がうらやましい」というキーワードがあることがわかります。
①と②は、もちろん両立します。相手に気に入られるためには、相手の意見にある程度合わせることが一番近道ですし、特に考えもないのにちがった意見を言うことは、普通に相手に失礼です。
ただ質問者さんが「相手とちがう意見を言うこと」=「自説を堂々と主張できること」と同じだと思われているなら、それはちょっとちがうかもしれないです。
相手の意見が間違っていたとしても、修正しなくて良い
誰だって①の意見には賛成でしょう。嫌われるよりは、気に入られたいですよね。
ただ②にあるように「必要以上に相手に合わせる」ようになると、しんどくなるとは思います。そもそも相手の意見が完全に間違えていたとしても、
職場が、もしもワンマン社長と自分しかいない場合は、①と②を徹底しないと職を失うかもしれないので、その場合は、この行動自体は問題ではなくサバイバル上、必要な対応とも言えます。
自説を堂々と主張する必要があるか?
③「自説を堂々と主張できる」に関しては、これも会社での立場が大きく影響します。「一人だけブチ抜きで営業成績がいい!」とか、「自分がいないとこの職場は回らない!」とか、そういった立場であれば、被雇用者でも③については許されるでしょう。
しかし、多くの場面で③を言おうとする人は、周りの人から強い反感を買うことが多いです。つまり、①と③の両立は相当難しいのが現実です(ドラマだと「そんなにはっきり言うとは気に入った!」と言う展開はありますが、レアだからこそドラマ映えするのです)。
そもそも、あえて、自説を堂々と主張する必要があるのでしょうか。
質問者さんの質問に対して私なりに回答すると「自分の意見を堂々と言う人は、相手から気に入られることが難しいし、職場では無理をして自己主張をせず、合わせすぎない程度に合わせる方がお得。相手とちがう意見を言いたい場合は状況をよく見る必要があるし、相手とちがう意見が特にないなら、わざわざひねくり出さなくても良い(むしろしない方が良い)」のではないかと思います。
反対意見をいう場合は、それなりに反発を受ける覚悟が必要です。もし、そこまで覚悟して言わなければいけない反対意見が毎日発生するような場合には、そもそも、長く続けられない職場なのではないでしょうか。もしそうなら、転職を考えた方がいいと思います。
いざというときのために資格勉強をしましょう。転職にも役に立つこともあるし、何より資格を取得すれば自信につながります。知識は誰にも奪われない財産ですから。
それでは、また次回に。
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく、行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーの道を志し文系に進学する。しかし「カウンセラーで食っていけるのはごく一部」という現実を知り、一念発起し、医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら、勉学とバイトにいそしみやっとのことで卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を専攻したが、医師研修中に父親が亡くなる喪失体験もあり、さまざまなことに対して自信を失う。医師を続けることを諦めかけるが、先輩の精神科主治医と出会うことで、精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にてさまざまな分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は、双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者が多い急性期精神科病棟の勤務医。「よりわかりやすく、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。個人クリニック開業に向け奮闘中。うつ病を経験し、ADHDの医師としてTwitter(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Twitterフォロワー6.6万人。『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』が初の著書。