企業文化に深く浸透するデザイン

 サイクロン技術は、掃除機以外の製品でも課題解決に生かされます。例えば、「手を乾かすのに時間がかかり過ぎて、歩きながらジーンズで手を拭く羽目になる」公衆トイレのハンドドライヤーにも、「何億人もの人が頻繁に使っているのに、技術面で時間が止まってしまっている」ヘアドライヤーにも。日常に潜む課題を明らかにし、デザインとエンジニアリングで解決策を提示していく。まさにデザイン思考のお手本です。

 マーケティングを大事にしながらも、自分たちが「イケる!」と思えば、市場の声より信念を優先するのも重要なポイントです。ダイソンの掃除機は、ダストカップが透明で、吸い込んだちりやほこりが見えるのが大きな特徴です。発売前の市場調査では「ほこりを見たい人なんていない」と不評だったそうですが、幹部たちは「見えるからこそ面白い!」と信じて商品化に踏み切っています。

 研究開発についてはこんな逸話もあります。あるとき、日本の雑誌に「どんな掃除機であっても床の上に微細なホコリの膜を残してしまうもの」という記事が出ていたことにショックを受けたダイソン幹部は、すぐさま検証に取り掛かります。それが事実であることを確認するやいなや、原因を究明し、膜を取り除くブラシを開発するのです。日本の雑誌までチェックしていたことにも驚きますが、それを新たな特許取得につなげてしまうとは!

 ユーザーを観察し、課題を明らかにして、解決する手立てを考えて、実行する。そのサイクルを回して新しい価値を創造していることがよく分かります。「デザイン経営」に優れた企業だといわれる理由が分かった気がします。