エンジニアが育たないなら、自分で育てる!

5126回もの失敗を受け入れるダイソンの姿勢に、デザインドリブンの経営とは何かを学ぶ――『インベンション 僕は未来を創意する』日本出版販売入社後、特販営業部、楽天ブックス等を経て、2003年よりマーケティング部門にて、データマーケティング・販売企画を中心に担当。MD課長、広報課長等を経て22年3月に退社。現在は日販のマーケティング部アドバイザーとしてデータマーケティングツール開発等の業務に携わる。NPO本屋大賞実行委員会理事、HONZメンバー
Photo by ASAMI MAKURA

 本書の後半では、未来のビジョンが語られます。ダイソンは今、農業再生と教育に取り組んでいるのです。特にジェームズが並々ならぬ熱意を傾けているのが教育です。

 ジェームズは、英国の教育の現状をこう嘆きます。

頭を使う科目ばかりに力を入れていて、子供たちが受験に直面する頃になると、ものづくりは時間の無駄だと思われてしまう。

 こうした姿勢のせいで、デザイン(設計)と技術は、学校カリキュラムの中で適切に扱われていない。(中略)結果として、(中略)エンジニアや技術者を銀行員やユーチューブのインフルエンサーやブランドマネージャーよりも低く見るのが英国の常識になっている。

 デザインとテクノロジーで世の中を変えるためには、教育を変えて、エンジニアを増やさなくてはならない――。そう考えたジェームズは2017年に「ダイソン インスティテュート オブ テクノロジー」を開校し、自らエンジニアの育成に乗り出します。エンジニア不足という課題に「教育」という解決策を提示したのです。

 ジェームズが幼少期から、両親や身近な製品から影響を受けてデザインとエンジニアリングに目覚めたように、優れたデザイン人材の育成には、相応の場所や環境が必要です。

 今の日本は、まだまだ「デザインが大事だ」というところで足踏みをしていて、少ないデザイン人材を奪い合っているように思います。「モノづくり大国」という称号を過去のものにしないためにも、「教育」はとても大切だと思いました。そして、デザインやエンジニアリングの知識を、誰でもアクセスできる当たり前のものにしていくためには、企業任せではなく、国としての環境整備が必要かもしれません。