1970年代以降、来日するベトナム人が増え、今では43万人(2021年12月末時点、出入国在留管理庁)のコミュニティーを形成している。だが、「その一方で社会に取り残された人も多く、犯罪組織を肥大化させています。ベトナム人コミュニティーには根深い問題があり、初期の時点でもう少し日本政府が親身になってくれていたら、と悔やまれます」とアウ・ダットさんは語る。

日本語はつぶしが利かない言語?

「日本語が少しも上達しない。3年間を無駄にした」――。埼玉県のある日本語学校でベトナム人留学生グエン・フォン君(仮名)がこうぼやいた。グエン君を受け持つ日本語教師は「ベトナム人は他の国籍の留学生に比べて数が多い。ベトナム人同士のコミュニティーへの依存は、日本語が上達しない原因の一つ」だと話す。

 グエン君にも、それなりの言い分があった。日本語を学ぶメリットをよくよく考えると、「結局、日本語を学んでも日本人との間でしか使えない」と、あきらめムードになってしまうのだという。

 その日本人とのコミュニケーションも、どうも積極的になれない。日本人の輪の中に入ろうとしても、話題や興味が一致しなかったりすることが多い。「日本人の雑談にはついていけず、自分はごまかしてただ笑っているだけ」――グエン君にかかわらず、孤独に陥る外国人は多い。

 日本語は「つぶしが利かない言語」だという声もある。ベトナムから中国や韓国に渡り仕事をする人もいるが、中国語や韓国語をマスターした方が、ベトナムでの再就職にも生かすことができるというのだ。

 ベトナムへの投資金額(2021年)を見ると、首位はシンガポール、2位は韓国だった。2021年、日本は金額で3位だったが、2022年上半期は5位に落ちた。前出のバン・タイさんは「他のアジア企業に比べて、ベトナムにおける日本企業は産業のすそ野を広げておらず、雇用の機会が多いとは感じられません」と語っている。