なお2020年の9月から11月は、感染第2波と第3波の間の沈静期で、GoToトラベルキャンペーンが行われるなど利用者が一時的に戻っていた。2021年の10月から12月も第5波と第6波の間で感染者がほとんどいない時期だったので、両年度の比較は概ね成り立つと見てよいだろう。

 さて東京圏を路線別に見ると日暮里・舎人ライナー(同)が対2020年度4ポイント増の144%、JR武蔵野線(東浦和→南浦和間)が3ポイント増の137%、JR埼京線(板橋→池袋間)が5ポイント増の132%、都営三田線(西巣鴨→巣鴨間)が2ポイント増の131%、東西線(木場→門前仲町間)が5ポイント増の128%だった。

 上位路線の顔ぶれはほとんど変わっていないが、昨年5位だった東急田園都市線(池尻大橋→渋谷間)は14ポイント減の112%と大幅に減少した。東急ではこの他、目黒線(不動前→目黒間)が26ポイント減の100%、東横線(祐天寺→中目黒間)も7ポイント減の116%となっている。コロナ前は混雑路線の双璧を成した東西線の利用が若干戻りつつあるのに対し、東急沿線はテレワークが急速に定着しつつあることがうかがえる。

混雑率と実態で
乖離が生まれる理由

 だが日々利用する通勤列車はもっと混んでいるはずだという声もあるだろう。国交省は混雑率の目安を次のように表現している。

100%:定員乗車。座席に着くか、つり革につかまるか、ドア付近の柱につかまることができる。
150%:肩が触れ合う程度で、新聞は楽に読める。
180%:体が触れ合うが、新聞は読める。
200%:体が触れ合い、相当な圧迫感がある。しかし、週刊誌なら何とか読める。
250%:電車が揺れるたびに、体が斜めになって身動きできない。手も動かせない

 東京圏の平均混雑率が108%、路線別に見ても最大150%以下ということは、ほとんどの列車は定員乗車で運行されており、混雑する路線でも他人と接触しない程度の混雑ということを意味するが、実態は必ずしもそうではない。

 なぜ乖離(かいり)が生まれるのか。混雑率は「輸送量の輸送力に対する割合」と定義される。算出方法は各路線で最も混雑する区間の、1時間単位で切り出したときに最も利用者の多い「ピーク1時間」に通過する利用者の合計を全列車の定員の合計で割って算出する。つまり混雑率は1時間の平均値であり、その中にはさまざまな偏りが存在する。

 ピーク時間帯は路線によって異なる(区分けも年度によって変動する)。例えば東京圏の外縁に伸びるJR高崎線(宮原→大宮間)は6時57分から7時57分、都心部を走る中央線各駅停車(代々木→千駄ケ谷間)は8時1分から9時1分がピークとなるが、当然その中に最も混雑する30分間なり10分間が存在する。

 また各駅停車と急行では後者の方が混雑する傾向にある。例えば各駅停車2本に対し急行が1本走る路線で、各駅停車の混雑率が100%、急行が160%だとすると、平均は120%になる(実際これほどの差は付かないが、あくまで思考実験と考えてほしい)。結果として各駅停車利用者、急行利用者とも実感とは異なる数値になってしまうというわけだ。

 その他、同じ列車でも改札口に近い車両に乗車が集中するなどの偏りもある。混雑率は国交省や鉄道事業者が混雑緩和の取り組みを対外的に説明するための数字であり、必ずしも混雑の実態を示すものではない。