大災害時は健康保険証がなくても
ケガや病気の治療が受けられる

 健康保険法第74条では、病気やケガをして医療機関を利用した場合、患者はかかった医療の一定割合を、「一部負担金として、当該保険医療機関または保険薬局に支払わなければならない」と規定している。

 そのため、平常時は、病院や診療所、薬局の窓口では健康保険証の提示とともに、年齢や所得に応じた一部負担金の支払いが求められる。窓口負担割合は、未就学児が2割、70歳未満が3割、70~74歳が2割、75歳が1割。70歳以上でも、現役並みの所得のある人は3割を負担する(2022年10月から、75歳以上で一定以上の所得のある人は2割に引き上げられる)。

 残りの7~9割は、公的な医療保険(健康保険)が負担する。医療機関は、健康保険証で患者が加入している健康保険組合を確認し、審査支払機関を通じて医療費の請求をしている。健康保険証がないと医療費の請求先が確認できないので、健康保険証を提示しないで受診した場合は、窓口では医療費の全額が請求されることになっている。

 だが、地震や津波、大雨といった災害などの非常時はどうだろうか。避難するのに精いっぱいで、健康保険証を自宅に置いたままにしていたり、紛失してしまったりすることも想定される。度重なる災害の経験を経て法律が改正されたため、災害時の医療費の支払いについては特例措置が設けられるようになっている。

 被災者が病院や診療所を受診する場合は、健康保険証の提示がなくても、氏名や生年月日、連絡先(電話番号等)、勤務先、加入している健康保険組合などを、口頭で伝えるだけで必要な医療が受けられる。

 今回の大雨でも、発災当日の8月3日付で、厚生労働省から関係各所に対して、「令和4年8月3日からの大雨による災害の被災者に係る被保険者証等の提示等について」が通知されており、被災者の医療の確保について周知徹底するように呼びかけている。

 また、平常時なら本来窓口で支払う自己負担金の猶予、減額、免除の措置が非常時には取られる。健康保険法第75条の2(および第110条の2)では、災害時の「一部負担金の額の特例」を次のように定めている。

第75条の2
 保険者は、災害その他の厚生労働省令で定める特別の事情がある被保険者であって、保険医療機関または保険薬局に第74条第1項の規定による一部負担金を支払うことが困難であると認められるものに対し、次の措置を採ることができる。

1 一部負担金を減額すること。
2 一部負担金の支払を免除すること。
3 保険医療機関または保険薬局に対する支払に代えて、一部負担金を直接に徴収することとし、その徴収を猶予すること。

 つまり、一定要件を満たした被災者の自己負担金については、健康保険組合の判断で、猶予・減額・免除をしてもいいということなのだ。