古田貴之人の役に立つ技術に命を注ぎ込む
写真 加藤昌人

 世界で初めて人工知能を搭載したヒューマノイドは、サッカーのゴールを決め、人びとを驚愕させた。1999年、まだ人型ロボットなど、タブー視されていた時代だ。あれから逆立ちもバック転も自在になった。だが、「人型が未来形というわけではない。形にはまったくこだわらない。作りたいのは人の役に立つロボット」だと言い切る。

 八本脚を持つ昆虫型ロボット「ハルク2」は、センサーで障害物などを認識、平地では車輪で走行し、段差のある場所では関節を持った脚で歩く。自動車の延長線上にとどまらないモビリティの未来を感じさせる。

 中学生時代に脊髄の難病を患った。余命数年、生涯の車椅子生活を宣告された。病棟ではいくつもの死に直面した。六人部屋のベッドは、自分だけを残し次々に入れ替わった。だが、奇跡は起こった。リハビリ生活を経て回復、そのときスケッチしたのが、車椅子の自分が欲しいと思った2本脚で自由に移動できる椅子型ロボットだった。「便利さはもういい。不自由さから人間を解放するロボットの開発に、与えられた命の限りを尽くそう」と誓った。

 現在、12ものプロジェクトを外部の研究者たちと共同で進めている。あの椅子型ロボットが完成する日も近い。研究の合間には学生にマンツーマンで教え、ボランティアで小中学生向けに出張授業も行なう。平均睡眠時間は1日わずか2時間。命を注ぎ込むように、「ペース配分を考えず、全力で走り続ける」。

(ジャーナリスト・田原 寛)


古田貴之(Takayuki Furuta)●ロボット研究者 1968年生まれ。青山学院大学大学院理工学研究科博士後期課程中途退学後、同大学理工学部助手。2000年、科学技術振興機構のロボット開発グループリーダーとして人型ロボットの開発に従事。03年、千葉工業大学未来ロボット技術研究センター設立に伴い所長就任。工学博士。