「映画を早送りで観る人」が損をする、作品を味わえない以前の不都合な真実写真はイメージです Photo:PIXTA

消費者は今まで以上に
「時間の効率」を求めている

 最近、「タイパ」という言葉が話題になっている。「タイパ」というのはタイムパフォーマンス、すなわち時間効率のことだ。今の消費者はこのタイパが良いものを求めようとする傾向が強くなってきている。

「映画を早送りで観る人たち」(稲田豊史氏・著 光文社)というベストセラーになっている本がある。筆者も読んでみたが、なかなか面白くて非常に示唆に富む内容であった。この本で述べられていることとその現象が抱えている問題については後に述べるが、いずれにしても現代は時間効率を求める風潮が一般化してきていると言ってよいだろう。

 家事においてこの傾向は強くなってきている。2021年時点で共働き世帯数は1247万世帯となっており、この数字は勤労者世帯の65%である。

 夫婦が共に働き、かつ中には子育ても併せて行っている世帯数が増加していることを考えると、家庭における家事労働はできるだけ効率化したいと考えるのは当然である。

 加えてコロナ禍によって在宅勤務を余儀なくされるようになると、家庭において家事の時間を少なくして、仕事も効率的にやりたいと考えるのも自然な流れだ。8月5日(現地時間)には米アマゾンがロボット掃除機「ルンバ」を作っている米アイロボット社を買収すると発表し、話題を集めていた。

 このような家電製品だけではなく、食品においてもさらに省力化や時間効率化を求める傾向は強くなりつつある。最近話題の「0秒チキンラーメン」などもそういった流れの一つだろう。

 ただ、こうした家事の省力化は今に始まったことではなく、戦後一貫して続いた流れである。かつては炊事、洗濯、掃除といった家事労働は大変な重労働であったが、昭和30年代から家電製品が浸透していくにつれて、家事労働が楽になり、その時間をもっと有意義に使えることになってきたのが、これまでの歴史だからだ。

 したがって、家事労働におけるタイムパフォーマンスの向上は生活にとって大きなプラスになる。ところがタイムパフォーマンスの向上を求めることが、本当に必要なのだろうか?と疑問に思うジャンルがある。

 それが映画やドラマといった映像作品の視聴である。