デザインの「負の力」を知る
松田行正[著]
左右社
本書では、戦争とデザインの関係が、「色」「しるし」「ことば」の三つの観点から、豊富な事例とともに考察されています。
例えば「戦争と色」の章には、日本でもおなじみのたばこ「ラッキーストライク」が登場します。ラッキーストライクといえば、白い箱の中央に、標的をかたどった赤い「◎」が配されたデザインがすぐ思い浮かびますよね。しかし、もともとの地の色は、白ではなく緑だったそう。「緑地に赤丸」から「白地に赤丸」へ、デザインが大きく変わったのは、真珠湾攻撃の翌年のこと。そう、このデザインには「日の丸」のイメージが重ねられているのです。
日本の国旗を標的に見立て、その真ん中に「ラッキーストライク(最高の一撃)」の文字を置いた意図は明らかです。このたばこは米軍の支給物となり、米軍の兵士たちに愛されたのだそう。まさかその後、日本でもこれだけ有名になるとは……。なんとも皮肉な話です。
戦争と深く結び付くことで、色や記号が負の意味を背負ってしまうこともあります。平時なら前向きなパワーを感じさせる「赤」が、戦時には流血を強くイメージさせる色になってしまいますし、今回の戦争では「Z」にロシア軍のイメージが強く付いてしまったため、「Z」の入ったロゴやサービス名を変更する企業も出ています。
正直なところ、私自身はこの本を読むまで「Z」に特別な嫌悪感はありませんでした。日本ではそれが多数派ではないでしょうか。しかし、世界に流布したイメージを考えると、近い将来、ハーケンクロイツのようにタブー視される記号になるかもしれません。
これまでにも、戦争を想起させるデザインを広告などに使って物議を醸した例は枚挙に暇がありません。ビジネスのグローバル化が進む中、「負のデザイン」の歴史や意味を知っておくことは、ますます重要になるでしょう。