先日亡くなった稲盛和夫氏の経営哲学に心酔する経営者は、日本だけでなく中国にも多い。あのアリババ集団やTikTok運営会社の創業者たちもその一員だ。稲盛氏の経営塾「盛和塾」の塾生は、中国全土に1万人以上もいるという。なぜそうした現象が起きたのか。(イトモス研究所所長 小倉健一)
京セラ、KDDIの前身を創業し
JALの再建を果たした稲盛和夫氏
享年90歳でその生涯を閉じた稲盛和夫氏。京セラの創業者であり、KDDIの前身である第二電電の創業者でもあり、さらには日本航空(JAL)の再建を果たした戦後を代表する経営者である。
そのすごさは、同時代に生きていれば肌で感じられたのだが、若い世代にはピンとこない人がいると思う。そんなとき、私が稲盛氏のすごさを伝えるためにしている説明の仕方がある。
それは中国人のある経営者が稲盛氏のすごさを表現していたのをそのまま「パクった」次第である。その経営者とは趙偉氏という人物だ。「本渋」というブランドで若い女性向けの衣料を展開。直営店を中心に300店舗で販売している。
米誌「フォーブス」の大富豪ランキングというのをみなさん知っていると思う。毎年、世界の億万長者を発表していて、2022年の第1位はイーロン・マスク氏だった。
それと同種の企画であるのだが、そのフォーチュンが毎年発表しているランキングで「フォーチュン・グローバル500」というリストがある。これは、世界中の会社を対象とした総収益ランキングだ。
要するに、その年の世界のトップ企業を発表しているということだ。
稲盛氏が、創業した京セラ、KDDI、再建した後のJALは、このフォーチュン・グローバル500にランクインしたことがある。メーカー、通信、運輸という全く異なる業態・業種の3社を経営し、それら3社ともをフォーチュン500にランクインさせた――。そんな経営者など、日本では1人だけであるし、世界を見渡してもほとんどいないだろう。
そしてその稲盛氏の経営哲学は、日本人だけでなく中国人の経営者の心をもわしづかみにしているのだ。あのアリババ集団の創業者である馬雲(ジャック・マー)氏の心酔エピソードもこの後ご紹介しよう。
また、中国人経営者が稲盛哲学に心酔したのは、稲盛氏の実績をもってしてというだけではない。その背景についてもお伝えしたい。