知識を増やせば、センスはどんどん育つ

――ビジネスパーソン側でも、「自分にはセンスがない」というコンプレックスを持っている人が多いと思います。

 デザインや芸術を理解する「センス」は、感受性と知識に分解できると思います。同じ机を見ても「天板の手触りと光沢が素晴らしい!」と感動する人もいれば、「机だ」としか思わない人もいる。これは感受性です。でも、木材や家具の知識を付ければ、どこがどう素晴らしいのか分かるようになります。先天的な感受性に、後天的な知識を掛け合わせればセンスは育つのです。「センスがない」と卑下する前に、センスの多くは知識で構築される、という認識をまず持ってほしいと思います。

――知識を付ければ、センスに自信のない経営者もデザインを決められるようになるでしょうか。

 それはまた別の話で、そもそも経営者はデザインを決めなくていいと僕は思っています。決めるのはデザインのプロに任せればいい。その手前で「デザイナーを選ぶ」ことこそ、経営者の重要な仕事です。

 そして、デザイナーの評価軸として重要なのが結果、もっといえば「売り上げ」だと僕は思っています。そのデザイナーが関わったことでブランド価値が向上し、業績が上がったかどうか。作品の好みでデザイナーを選ぶことも否定しませんが、好みのデザインで企業を飾ることは、ブランディングというよりオーダーメードであり、それで売り上げが伸びるわけではありません。もちろん売り上げが唯一の正義とは思いませんが、非常に重要であることは確かです。

「絵で考える」デザイナーの力で、ビジョンやパーパスに血を通わせるPhoto by KOHEI SOEDA

――デザイン思考に注目が集まっている背景には、デザインの力でイノベーションを起こして「0から1を作りたい」という経営者の思いもあると思います。

 それは大きな誤解ですね。イノベーションとは、異なる1と1をくっつけて2や3に、あるいは10にも100にもすることです。蒸気機関車は、蒸気機関とクランクの組み合わせだし、iPhoneも電話や音楽プレーヤー、パソコンなどをグニュッと一体化して生まれました。ある日突然、無から誕生したわけではありません。僕が「センスは知識と知識の組み合わせから生まれる」と言っているのも基本的に同じで、異なるものをつなげることがイノベーションの本質だし、そのためになら、デザインは大きな力になると思います。