小麦価格,小麦,パン,パンの価格に占める比率が1割にとどまる小麦の値上がりを防いでも物価対策としての効果は限定的 Photo:Helen King/gettyimages

政府は、物価高騰対策の一環で小麦価格を据え置くことを決めた。一見、まっとうな政策のようだが、製パン会社などにしわ寄せが行くだけでなく、消費者の利益になるかどうかも疑問だ。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文、山本興陽)

小麦価格を維持する政策が
逆に企業を苦しめる結果に 

 岸田文雄首相の鶴の一声で、食品の値上がりの影響緩和策が決まった。

 国内で流通する小麦の8割強が外国産であり、その輸入は政府が管理している。岸田政権は、国が一括して輸入する小麦を製粉会社などに販売する価格(国家貿易における政府売り渡し価格)を据え置くことにした。

 だがこれに対して、製粉会社や製パン会社は、「喜ぶ」どころか「悲鳴」を上げている。支援策が講じられたはずが、逆に企業を苦しめる結果になるのはなぜなのか。

 まず前提として、国内の小麦消費量はコロナショック後の外食産業の落ち込みにもかかわらず減っていない。2019年度の消費量の前年度比は99%、20年度は97%、21年度は101%(農林水産省予想)、22年度は100%(同)と一定。輸入量も横ばいだった。

 しかし、価格は一定とはいかなかった。特に、22年度はロシアによるウクライナへの軍事侵攻で小麦の国際価格が高騰する中、国内価格も急上昇した。

 日本政府は毎年2回、小麦の政府売り渡し価格を改定する(直近の6カ月間の政府買い付け価格の平均値を適用する)のだが、今年4月の改定価格では前期比17.3%も上昇した。

 このまま対策を打たなければ、次の改定のタイミングである10月の政府売り渡し価格はさらに2割高くなるとみられていた。