ヒントを探していくと、ACLのステータスを高めるために試行錯誤が繰り返されていた、00年代の中頃におけるやり取りに行き着く。

中国・スイスの合弁会社がビッグマネーを投下
その狙いは?

 当時のAFCはプロリーグ特別委員会を設置。委員長を務めていた日本サッカー協会の川淵三郎キャプテンは「それなりの額の賞金を出せなければ、大会の価値は上がっていかない」と先を見すえ、テレビ放映権料などを財源とするACL改革の青写真を描いていた。

 その後に14年当時の優勝賞金150万ドル、17年当時の300万ドルと金額が上がっていったなかで、AFCの歴史そのものを劇的に、かつ根本的に変えるターニングポイントが18年6月に訪れた。

 AFCが主催する代表およびクラブの公式戦の放映権事業を巡る入札で、それまで事業を担っていたフランスの代理店ラガルデールに日本の電通、当時DAZN(ダ・ゾーン)を運営していたパフォームグループが加わった3社連合が、一騎打ちの末に敗れたからだ。

 当時のレートで実に2300億円に達する、20億ドルとも言われるビッグマネーで落札したのはDDMCフォルティス。中国のスポーツ、メディア、エンターテインメントなどをリードするDDMC社と、スイスのマーケティング専門企業フォルティス・スポーツ社が、21年から28年までの8年間に及ぶAFCの放映権事業を独占するためだけに手を組んだ合弁企業だ。

 一般には聞き慣れない社名となるDDMCフォルティスは、日本代表が序盤で苦戦を強いられながらもワールドカップ出場を決めたアジア最終予選とも密接に関わっている。

 DDMCフォルティスがアジア各国に提示した放映権料があまりにも高額だったため、キャッチコピーの「絶対に負けられない戦い」でおなじみだったテレビ朝日も撤退する事態が発生。ワールドカップのアジア最終予選が地上波でオンエアされないのでは、という危機感が一時は頭をもたげた。

 最終的にはDAZNが放映権を獲得し、さらにテレビ朝日がホームで開催される5試合限定で放映権をDAZNから購入した一方で、森保ジャパンが7大会連続7度目のワールドカップ出場を決めた3月のオーストラリア代表戦を含めて、アウェーでの5試合が地上波で見られない状況も生まれた。

 話をDDMAフォルティスに戻せば、素朴な疑問が浮かんでくる。電通を含めた3社連合が太刀打ちできないほどの莫大な金額で、AFCの放映権事業を一手に担うのはなぜなのか。

 答えはアジアに眠る、膨大な人口に比例したポテンシャルにある。今年11月にはアジアで2度目となるワールドカップがカタールで開催される。さらに4年後の26年にアメリカ、カナダ、メキシコで共同開催される次回ワールドカップでは、全体の出場国数が現状の「32」から50%増の「48」へ拡大され、アジア大陸枠も「4.5」から一気に「8.5」へと増える。

 ここにきて実力を伸ばしているタイやベトナムなどの東南アジア勢や、過去に1度しか出場していない中国にもチャンスが巡ってくる。こうした状況を受けて、AFCとDDMCフォルティスは20年代を「成長のための黄金の10年」と見すえ、さらにこんな戦略を掲げていた。