「特に地域全体の若い視聴者を引きつけることに重点を置き、競争ブランドの強化に焦点をあてる」

 優勝で2000万ユーロ(約28億8000万円)、準優勝で1550万ユーロ(約22億3300万円)だった昨シーズンのUEFAチャンピオンズリーグにはまだまだ及ばない。それでも、22年の世界人口ランキングで1、2位を占めた約14億4850万人の中国、約14億66万人のインドをはじめとして、東南アジアを含めてサッカーを介して開拓できる分野が十分にあると標的を定めた。

 さらにAFCは「アジアが非常に強固な財政基盤を持ったと保証できる」と、DDMCフォルティスとのパートナーシップ締結を歓迎した。18年大会から引き上げられた賞金はACLのステータスだけでなく、各国の強豪クラブ間における競争力を劇的に高め、結果としてアジア大陸全体のブランド力を高めるための先行投資的な意味合いを持っていたと言っていい。

コロナ禍で収入激減のJクラブ
過密日程でもACLは戦う価値あり

 決勝進出で日本円にして数億円単位の収入を得られるACLは、Jクラブにとって「罰ゲーム」と揶揄された存在ではなくなったと言っていいだろう。コロナ禍に見舞われた、20年度と21年度におけるJクラブの経営情報を見れば、激減した入場料収入が大きな打撃を与えている跡がわかる。

 単年度赤字に陥ったJ1クラブ数は、コロナ禍前の19年度の「6」が20年度は「12」を、20チーム体制だった21年度は「10」をそれぞれ数えている。21年度では債務超過クラブも仙台、柏、名古屋グランパス、セレッソ、アビスパ福岡、サガン鳥栖と「6」を数えた。

 浦和の当期純利益も19年度の6200万円の黒字から、一転して20年度は6億1200万円の赤字を計上。さまざまな経営努力を積み重ねた末に、21年度は何とか200万円の黒字に転換させた。今シーズンも入場者数に上限が設けられてきただけに、Jリーグで群を抜く入場者数を誇ってきた浦和にとっても、数億円単位の収入を確定させたACLの快進撃は経営面でも大きな追い風になる。

 しかし、賞金面での魅力が大幅に増し、今後さらに増額される可能性があるとしても、JリーグとACLを並行して戦っていく上で、特に選手層の厚さが問われるハードルの高さは変わっていない。現時点でJ1とACLとを同じシーズンに制したチームはまだ現れていないからだ。

 最も近づいた07年の浦和も、J1最終節で最下位の横浜FCに敗れて鹿島に逆転優勝を許した。後にACLを制した08年のガンバ大阪はそのシーズンのJ1で8位、17年の浦和は7位、18年の鹿島は3位で、今シーズンの浦和も7試合を残した段階で9位となっている。

 今シーズンのACLノックアウトステージでは、ラウンド16で横浜F・マリノスを撃破したヴィッセル神戸が、中3日で行われた全北現代との準々決勝で大幅に先発を変更して敗退した。

 真夏の消耗戦が考慮され、さらにMFアンドレス・イニエスタとFW大迫勇也が負傷した状況での苦渋の決断だった。しかし、すべて中2日で勝ち上がった浦和はほとんど先発を変えていない。残留争いの渦中にあったJ1をACLより優先させた、という批判が少なからず神戸へ向けられた。

 ACL覇者がアジア代表として出場するFIFAクラブワールドカップも、コロナ禍の中で次回大会の詳細が国際サッカー連盟(FIFA)から発表されていない。ヨーロッパ王者と公式戦で真剣勝負ができるかもしれない、というモチベーションは現時点で不透明なままとなっている。

 さらにACLそのものも、23年の次回大会から秋開幕、翌年の春閉幕の形に変更される。ヨーロッパの主要シーズンに合わせた措置だが、春開幕、秋閉幕の日本や韓国はACLを戦っている真っ只中でシーズンが変わり、チームの体制や顔ぶれが若干ながら違ってくる可能性もある。

 原則としてACLの出場権は前年のJ1の上位3クラブと、天皇杯を制したクラブが獲得する。国内の戦いの先に待つACLへ、どうしても照準を絞りづらい状況が生まれている中で、それでも川崎やマリノス、鹿島に代表されるクラブがアジア王者を目標に定めて久しい。

 だからこそ「罰ゲーム」と揶揄された時期からACL制覇を掲げてきた浦和が臨む、4度目の決勝戦はピッチの内外で大きな意味を持つ。3度目の優勝を果たせばACL史上で最多となる名誉だけではない。浦和が手にする7億円近いビッグマネーが後に続くJクラブ勢を、そしてニュースなどで決勝を知る浦和のファン・サポーター以外の人々をも大きく刺激し、必然的にACLの価値を高めるからだ。

 注目される浦和の対戦相手、西地区の勝ち上がりチームが決まるのは来年2月10日。その後の同19日に敵地で、26日には浦和のホームで決勝が行われ、2戦合計のスコアで雌雄を決する。