後継者不足以外にも、和菓子業界の不安要素はある。それが良質な国産原料の不足だ。

「和菓子に欠かせない国産小豆は、ほとんどが北海道産です。ただ、それゆえ気候変動による気温の上昇や天候不良によって、ひとたび不作などが起きると、これまで通りの食味や風味を有する高品質な国産小豆が確保できなくなることも予想されます」

 さらに、小豆の他にもよもぎ餅などで使用するよもぎの調達も一昔前に比べて、難しくなっているという。

「20年ほど前には、田んぼのあぜ道に自生したよもぎを収穫する季節労働がありました。主に担ったのは高齢者で、それらの集荷者、仲卸業者もおり、和菓子店などに行き渡っていました。しかし、過疎化や高齢化などにより、出荷者、集荷者、仲卸の関係性が失われている。以前よりも国産よもぎが調達しにくくなっています」

 国産よもぎと同様に、生産者や収穫者の減少、引退は桜の葉や栗などの調達にも影響を与えているそうだ。

自動販売機やウーバーイーツの活用で
集客につなげる和菓子店も

 では、現在の和菓子業界にはどのような改善が求められるのか。

「新型コロナによって和菓子業界は対面販売への偏重が浮き彫りになりました。もちろんポストコロナの戦略としては、『温かみと絆』を取り戻すリアルな対面サービスをさらに工夫・強化し、新規顧客とリピーターの獲得に注力することが求められます。しかし、一部店舗では自動販売機による販売や、ウーバーイーツでの配達を行い、集客につながっているところもあります。このような新しい販売方法は、人の流れや立地条件にもよりますが、今般の難局を乗り切る戦略として積極的に取り入れていかなくてはならないでしょう」

 たとえば千葉県松戸市の「菓匠 松久」は、店先の自動販売機でどら焼きやカステラを販売している。愛知県大治町の和菓子店「松葉堂」も2021年6月に自動販売機を設置し、まんじゅうや団子、季節のお菓子を販売。他にも、創業135年を迎える「高山堂」(本社・兵庫県西宮市)は、訳あり商品の詰め合わせを自動販売機で売っている。

「自動販売機では小分けで、過剰な包装もなく、閉店後も購入できる。お客さんにとって和菓子が買いやすくなりました。店舗に入ることや箱詰めの商品にハードルを感じてしまうお客さんもいます。自動販売機やウーバーイーツなどは、急場しのぎとはいえ、そうした心理的なハードルを下げる効果ももたらしました」

 また、前述した原料の問題についても成功例があるという。

「岐阜県恵那市の『恵那川上屋』では、地元の栗生産者に寄り添い、栗の品質を向上させ、高値で全量を買い取るという仕組みを構築しました。同社はこのモデルを長野県飯島町や熊本県菊池市などに広げています。いわば、和菓子店が原料の産地を形成しているのです。もちろん、ある程度の資本が必要ですが、このような和菓子と農業の相乗効果が発揮できるモデルが他にも出てくることが期待されます」