実際、私はファイナンシャル・プランナー(FP)として20年以上、4000件以上の家計相談に乗ってきたが、40代半ばで預金が少なくても「みんなこんなものじゃないんですか?」と平然としているような人を数多く見ている。
しかし、勤務先、年収、年次、家族構成などが同じような人たちの間でも、貯蓄が3000万円もある人がいる一方で、貯蓄といえるのが普通預金の50万円だけという人もいる。漠然と「自分は平均的、一般的な人生を歩んでいる」と考えていると、老後に痛い目に遭うおそれがある。
特に、収入が高く「退職金が出るし、家もクルマも持っている自分が、将来金銭的に困るなんてことはないはず」と思っている人の中に、実は下流老人になる可能性が高い“下流予備軍”が多い。これは、「老後は必ず年収が大幅に下がるものだ」という事実に気付いていないからだ。
現役時代に年収が700万~800万円あるような人でも、退職して年金生活に入れば、年金収入は200万円程度になる。つまり、年収が500万円以上ダウンするのだ。これだけ収入が激減するのだから、不足分を貯めておかなければ、今と同じ生活水準を維持できないのは明白だ。それなのに計画的な貯蓄もせず「なんとかなる」と思っている人は、“下流老人”になるリスクが高いといわざるを得ない。
あなた自身が“下流予備軍”かどうか、簡単に判定するポイントがある。次の3つの質問に、あなたは即答できるだろうか。
(1)世帯で1カ月に使っている金額は?
(2)昨年1年間で貯蓄できた金額は?
(3)60歳時の住宅ローン残高は?
いずれも、万円単位のざっくりとした金額でかまわない。
もし、すぐに答えられなかったのなら、あなたは自分が“下流予備軍”だと自覚する必要があるだろう。
まず(1)の毎月いくら使っているのかを即答できないのは、計画的にお金を貯めていないからだ。毎月、決まった額を貯めている人なら、月々の手取り額から貯蓄分を差し引いて使っている金額を計算できるはずなのだ。(2)の1年間で貯めた金額も、「毎月5万円、ボーナス時は20万円」などと貯蓄に回す分を決めている人なら、「年間100万円貯めている」とすぐ答えられる。
1カ月に使っている金額がわからない人の多くは、月々の手取り額以上に支出が膨らんでいることに気付いていない。普通預金にまとまったお金が入っていると、毎月赤字になっていても日々の生活は回るからだ。ボーナスで赤字を補填するので、預金額は大きく減ることはなくても、増える気配もない――私のもとに相談にやって来る人のうち、半分ほどはこのパターンに陥っている。
普通預金に200万円程度を維持していて「ある程度のまとまったお金はある」状態というケースも多く、やりくりに困っているというほどではないので、危機感が乏しいのも特徴と言えるだろう。
だが、貯蓄が増えていないのは、企業でいえば「利益ゼロ」が続いているということ。このような状態を放置すれば、老後資金の準備はとても間に合わない。