共に「経営の神様」と呼ばれた松下幸之助氏と稲盛和夫氏は、共に「鬼」の一面も持っていた。稲盛氏は、若き日のソフトバンク創業者である孫正義氏を追い込んだ。そしてその稲盛氏は、幸之助氏が率いる松下グループからの度重なる値下げ交渉に苦しめられた。ところが稲盛氏は「最後には居直ってしまった」と語っている。「松下幸之助vs稲盛和夫」。経営の神様が経営の神様に値下げを迫った日本経営史に残る出来事といえる事件の衝撃の結末とは――。(イトモス研究所所長 小倉健一)
松下幸之助氏と稲盛和夫氏
経営の神様が持つ「鬼」の側面
いくらきれいごとを会社や社会に向かって発信していても、数字で厳しい責任を取らされるのが経営者の宿命だ。
その点、政治家という稼業はお気楽なものかもしれない。選挙に大勝した岸田文雄首相が掲げた「新しい資本主義」はどこへ行ってしまったのだろうか。政治家は何も実行しなくても続けられるのに対し、経営者が計画を達成できないとなれば、株主からの辞任要求は免れない。厳しい競争社会であれば当然の前提であろう。
一代で松下電器(現パナソニック ホールディングス)を起業し、日本を代表する企業にした松下幸之助氏。同じく一代で京セラ、DDI(第二電電、現在のKDDI)を起業して日本を代表する企業にし、そして日本航空(JAL)を再生した稲盛和夫氏。この2人の「経営の神様」は、会社を大きくしながら社会に向かって積極的にメッセージを発信してきた。
マスコミにマイクを向けられているときは、幸之助氏も稲盛氏も穏やかな口調で語るのが印象的だ。しかし、そんな穏やかな顔、誠実な語り口だけでは、日本を代表する企業のトップになどなれない。今回は、2人の神様の「鬼」の側面をお伝えする。
稲盛氏は、実は若き日のソフトバンクグループ創業者である孫正義氏を前に鬼の交渉術を披露している。孫氏の意識がもうろうとするほど追い込み、孫氏が後で後悔する内容の契約を結ばせてしまったのだ。
そしてその稲盛氏は、幸之助氏が率いる松下グループから散々な目に遭わされている。度重なる値下げ交渉に応え続けるしかなかったからだ。ところが稲盛氏は「最後には居直ってしまいました」と語っている。
「松下幸之助vs稲盛和夫」。経営の神様が経営の神様に値下げを迫った日本経営史に残る出来事といえる事件の衝撃の結末とは――。